第8章 【刀剣乱舞✕色々】チートな幼女の過去話
「さっさと行け!」
男は大きな声で怒鳴り散らすと足音荒く御前に近寄り、彼女の右腕を引き、門の前までくると力一杯突き飛ばした。
その行為が不意打ちだった御前は、抵抗する間もなく呆気なく門の先へと消えた。
それと同時に私も門へと吸い込まれ、直前に速魚殿が必死に手を伸ばすのが見えた。
ーーー
ここから先は、山姥切殿の証言や私の知る事象と一致する。
突き飛ばされた御前は件(くだん)の本丸に到着し、山姥切殿に会い、手入れをし。
悪事を働いた前の主を政府へと突き出し。
私たちを救ってくださったのだ。
今まで黒く変わっていき次の“記憶”を見ていた視界は、強く輝く真白に染め上げられていった。
意識が、浮上する。
(嗚呼、ようやくの“起床”ですな)
ーーー
「おそようさん」
意識の覚醒と共に声を掛けてれたのは、内番服を身に纏う同田貫殿だった。
「お、はようございます。同田貫、殿」
どうして此処にいるのかと聞きたくなったが、恐らく御前が遣わしてくださったのだろう。
困惑したまま挨拶を返すと同田貫殿は噴き出し、口元を隠し笑いながら言った。
「寝ぼけてんのか?ったく、寝る子は育つって良く言うけどよ、ちぃと寝過ぎだな。ちったァてめぇは成長したか?」
揶揄うような口調は、どうにも盛大に笑いたいのを我慢しているようにしか見えず。
意思とは無関係に顬(こめかみ)や口角がひくついた。
「そう、ですな。御前の事を知ることが出来ました」
「...“夢”を見たのか」
笑うことを止め目を細める彼は小声で、ついに知ったか、と呟いた。
その一言は“これ”を彼が知っていたことを指す。
「...はい。途方もない“夢”を」
それは本来知るはずのない。
あの御方が此処に来るまでの、我らと出会い我らが救われるまでの長い長い“記憶”。
彼女が“赫映(かぐや)”と呼ばれる所以。
「あの御方は私の、私たちの唯一無二の主人であると再度認識できました」
心の底からそう思う。
彼女がいなければ、私たちはきっと折れていた。
人間(審神者)を恨んで憎んで折れていっただろう。
そうでなくとも闇に堕ちていたかもしれない。
「そうかよ」
その言葉には、俺もだ、という一言も含まれているようで。
じわりと胸が熱くなった。
無意識に口元が緩む。