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混合短編集

第8章 【刀剣乱舞✕色々】チートな幼女の過去話


合図をされた速魚殿は浅く頷いて、同田貫殿を背に屋敷へと足を向ける。
去って行く速魚殿を見届けた松風殿は向き直り、御前の前で跪いた。それを見習ってか織部殿も膝をつく。

「恐らくこの二人で最後だ」
「分かった」

もう一度、あの呪文が歌われる。
今度は先程よりも緩やかに。


その呪文を聞き終える前に、私の視界は黒くなった。



ーーー


目を開くと、いつも出陣の際に使う門とよく似た門の前に同田貫殿、蜻蛉切殿、燭台切殿、乱、鯰尾、前田がいた。
皆、衣服こそぼろ雑巾のようだが、肌には傷一つない。

また更に時間は進んだらしい。
六人の表情はいくらか明るくなっていた。


そんな六人を見上げる御前。
他の五人より少し前に立つ乱に、彼女は手を出すように言った。
その言葉通り、疑うことなく手を出す乱は首を傾げている。


「これあげる」

そう言われ、差し出されたのは小さな小物入れ。
迦具月宮(かぐつきのみや)家の家紋が入った、小さな入れ物。

「これなぁに、赫映(かぐや)姫」

手に乗せられたそれをしげしげと見つめる乱は、あれから随分と懐いたようだ。


“赫映姫”
その呼称は迦具月宮(かぐつきのみや)家の女当主の尊称。
生涯忠誠を誓うか、一族の者であるか、友人故の愛称か。いずれかでなければ呼ぶことは出来ない。

友人、というには烏滸がましい。
一族の者、というには私は人間ではない。

恐らく忠誠を誓ったのだろう。
あの時、帰って来た部隊の全員が月の加護を纏っていた。
当時の主は気づいていなかったが。


鯰尾は乱の横から顔を覗かせ、それを不思議そうに見つめる。

「私の霊力を凝縮した塗り薬が入ってる。軽傷なら一瞬で、重傷なら塗って一晩で治る」
「...手入れの代わりになる、ってことだね」

ごくり、と唾を飲む燭台切殿。
それもそうだろう。
そんな素晴らしい万能薬、在ると知っていたなら喉から手が出る程欲しいもの。
本来ならば、こんなにあっさりと貰える代物ではない筈。

それをなんでもないかのように、すんなりと渡す御前。


「折れ(死に)たくないなら塗るといい」


この塗り薬を塗れば、重傷の兄弟たちや仲間たちが助かる。
そう分かって乱たちはとても嬉しそうだったが、同田貫殿は不服そうだった。
眉間の皺はより一層深くなり、意を決した彼は口を開いた。
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