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混合短編集

第8章 【刀剣乱舞✕色々】チートな幼女の過去話


だが、彼は一人で此処に倒れている。部隊の他の5人は何処にいるのか。
きょろと見回すが近くには見当たらなかった。


彼女は同田貫殿の傍にしゃがみこみ、彼の頬にそっと手を添えた。気配で気づけず、触られたことで気づいた彼は呻きながら薄ら目を開く。
彼は酷く掠れた声で何かを呟いた。
呟きを聞き取った御前は、同田貫殿の頬をするりと撫でる。

「動かない方がいい。傷に障るよ」
「...ここ、はどこ、だッ」

動かないであろう身体に鞭を打って、警戒をする同田貫殿。
幼子にすら殺気を向ける彼は、もう限界だった。震えながら握り締める依り代にはいくつもの亀裂が入り、吐き出される呼気は弱りきっている。

同田貫殿はじろりと御前を睨めつけるが、とうの彼女は何処吹く風。鋭い殺気に全く怖がることなく、むしろ優しく微笑んでいた。

「此処は豊穣の社(ほうじょうのやしろ)。迦具月宮(かぐつきのみや)家が守護する地。
だから安心して眠ればいい。大丈夫、此処に貴方を害する者は来ない」

「ほ、じょ?...か、ぐつき、の?」

同田貫殿は億劫そうにぱちりと一つ瞬きをした。
聞かされた家名は天皇家誕生の頃よりそこらの武家よりも、組織よりも圧倒的に権力と武力を持つ彼(か)の家。
常に結界が張られ、一族の者の許可がなければ立ち入る事が許されない地の名。

警戒を孕んでいた双眸は安堵へと変化する。


ぼたり、と大粒の一涙が渇いた地に落ちた。
一粒落ちるとあとはもうひっきりなしで、瞬きをする毎に涙は頬を伝う。

「大丈夫、貴方の仲間は保護した」

その言葉を聞きくしゃりと顔を歪め、声を殺すように泣く同田貫殿。彼の泣く姿など、未だかつて見た事がなかった。

無愛想で不器用だが優しく、責任感が強い彼が仲間の無事を聞き、安堵し泣いている。

それ程までに厳しい状況下での出陣だったのだろう。
あまり出陣することのなかった私は、想像することができない。


そういえばある時から、前の主が『三日月宗近』をいっとう欲しがった事があった。
これはその頃のことなのではないか、と私は考えた。

厚樫山に出陣した同田貫殿率いる部隊が帰還した、あの時。
着ている衣服こそボロボロだったが、本人たちはほぼ無傷だった。
それは、今ここに同田貫殿がいることに関係している。
そんな気がした。


「...詳しい事は後にしよう。今は手入れが先」
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