第8章 【刀剣乱舞✕色々】チートな幼女の過去話
言い終えた男の顔は言い切ったと言う達成感で埋め尽くされてる。
本人は簡単に言ったつもりかもしれないが、一気に難しくなったように思う。
果たして理解できたのか...。
恐る恐る御前の顔を見ると。
先程の寝ぼけたようなぼんやりとした表情から一変、私の知るあの御方の目をしていた。
「わたしにそれをやれというの」
むしろ鋭い色を秘めた双眸は、男の自慢げな表情を崩した。
そして、その口調も問い掛けるような生優しいものではなく、息をすることを躊躇う程高圧的なそれ。
到底幼子とは思えぬもので、それでいて私にとっては心安らぐもの。
「こっ、高額な入院費や手術費など、到底子どもが払える額ではないでしょう?でですから貴女様が審神者になってくださるならば、時の政府が代わりに払いましょうっ」
慌てて弁明するように付け足す男は、無様なまでに額から汗を流していた。
先程までの自信は何処へ行ったのか。
傍目から見て幼子の威圧に負けるなど、みっともないことだ。
それでもぷらいどとやらが邪魔をするらしく、引きつった笑みに絶やさず「ど、どうでしょう」と上ずった声を上げる。
ご機嫌伺いさながらの態度をただ静観する御前。
彼女はその言葉に返事することなく、視線を逸らした。
いや、逸らしたと言うよりは隣りで眠る弟君に視線を移したと言うべきか。
御前は寝かされている弟君をそっと抱き寄せ、男を睨み付けた。
それは、言外に「弟も一緒に」と言っているようで。
男も威圧に紛れるそれを察したらしく、無理矢理有るようで無い威厳を滲ませながら頷いた。
「...まっ、まあいいでしょう。おお、弟君も共にいらしてください」
どもる男の声を最後に、真白の空間は足元から漆黒に侵食されていった。
ーーー
さあ、と色付く視界は一色。
先程まで見ていたのは全て部屋だった。
しかし、今は飾り立てるものなど無い象牙色の廊下に立っていた。
果ての見えない長い長い廊下。
そこにぽつんと佇む御前は、洋服でもなく白の寝間着でもなく。赤と白が映える巫女装束を身につけていた。
大きすぎることもなく、小さすぎることもなく丁度な着丈のものだ。
(嗚呼、ついに審神者になられたのですな...)
しみじみと思ってしまったが、幼いながら着こなす姿が愛らしく健気に思えた。
「はじめまして。貴女様の担当の蔦と申す者です」