第8章 【刀剣乱舞✕色々】チートな幼女の過去話
男は私の予感を裏切ることなく、その鈍く光る刃を、一直線に御前の右足太腿に振り下ろした。
出来ぬ叶わぬと分かっていても行為を止めようと手を伸ばす。が、それも無意味に終わる。
だんとも、ごきとも取れる音が、まだ幼くか弱い骨を断つ音が、した。
骨を断たれるというのは、戦場で大なり小なり怪我をする私たち刀剣男士でも程度によっては気を失う程痛い。
だというに、その想像を絶する激痛を瀕死寸前の怪我などしたこともないだろう幼子に、何ということをするのか。
気絶してしまいそうな程の激痛から、聞く者の心を引き裂くような悲痛な叫びが部屋中に木霊する。
その声に混じるように赤子の泣き声も響き渡った。
姉の叫びに驚いた弟君は、恐怖と絶望を嘆くようにわんわんと泣く。
痛みを誤魔化すように声を上げる彼女の右足からは、だくだくと止めどなく大量の血液が流れ出る。
致死量と言っても過言ではない程だ。
次第に部屋中に鼻につく程の血なまぐさい臭いが充満する。
(嗚呼、このままではッ)
このままでは御前が失血死してしまう。
本当は今すぐにでも駆け寄り手当てしたい。
出来ないのだと分かっていても。
しかしあの御方は“今”を生きている。
それには必ず理由がある筈なのだ。
ここはひとつ、と逸る気持ちを抑え、足に力を入れその場から動かずにおく。
なにか。何かある筈なのだ。
「うるせェな、黙れよ」
鉈を片手に耳をふさいで、まるで見るに堪えぬ物を見る目で見る男。残酷な事をしておいて、なんでもないかのように振る舞うその姿は実に不愉快だった。
男は激痛に耐えながらも必死に弟君を抱きしめる彼女を眺め、にやりと嗤った。
「そうだなァ、腕もいっとくか」
足だけでは飽き足らず、次は腕だと言う男。
これがただの憂さ晴らしであるというならあまりに惨い。
弟君を護る左腕をぐいと引き剥がし、床に押さえつける。痛みに叫びながらも、男の拘束を解こうと必死になる御前。
しかし、どれだけ暴れようとも拘束は解かれず、むしろ強くなる一方。
あんなにやせ細った幼子が大の大人の力になど、到底適うわけだないのだ。
下衆な笑みを浮べ、再びあの鉈を振り上げる。
(止めろッ)
鈍く光る刃は違う(たがう)ことなく、彼女の左腕の付け根に振り下ろされた。
「ほらよっ」
ゴッと、音がする。