第2章 【刀剣乱舞✕もののがたり】 岐の血とは恐ろしい。
困った。実に困った。
泣きじゃくる人間を泣き止ませる方法なんて知らない。とりあえず背を撫でてみるが、さらに泣いている気がする。
そういえば。
幼い頃、転んで泣いていた自分を父はなんと言って慰めてくれただろうか。
確か。
「お前は強い子だ」
少年の背をぽんぽんと叩きながら、なるべく優しく声をかけると落ち着いてきたのだろう。
泣くのを堪える声ではなく、すんすんと鼻をすする音がした。良かった。
そんな少年の様子を微笑ましげに、でも悲しげに見つめる三人。鼓に至っては涙ぐんでいるような。
「こ、こんのすけが」
ある程度落ち着いたのか、唐突に話し始める少年。
ん?はて、こんのすけ?誰だ。
聞き覚えのない知らない名前が出てきたため、詳しく聞こうと一度少年を離した。
少年は名残惜しそうに離れ、涙で濡れた琥珀で私を見る。
「あ、新しい審神者さまを連れてくるから、それまで耐えてくれって」
貴女ですよ、ね?と懇願するように続ける少年は、自らを「五虎退」と名乗った。
しかしどういうことなのか。
その「こんのすけ」とは誰なのか?
新しい審神者を連れて来るとは?それまで耐えるとは?
なんだか嫌な予感がした。
ただ事ではない何が起きている。
険しい表情の私を見て、何を勘違いしたのか五虎退が飛びついてきた。
「す、捨てないで、くださいっ」
は?
その一言は私の思考を停止させるには十分だった。ガタガタと震え、せっかく泣き止んだのにまた泣き出す。
「捨てるじゃと?」
ここまで静かに傍観してきた爪弾が、怪訝そうに顔を歪めて言った。爪弾の両隣にいる二人も顔を顰めている。
「どういうことなんだ」
私の声色にビクッとして、ゆっくり離れた五虎退は視線を彷徨わせながら小声で言った。
「主様が、役立たずは、捨てるって...」
役立たず。
それがどれほど残酷な言葉であると理解した上で口にしたのだろうか、その「主様」とやらは。
道理で先程から五虎退は私の顔色をうかがっていると思った。
最初は、父譲りの眼光に怯えているものだと思っていた。
だが、そうではなかった。
怒らせてはいけないと、困らせてはいけないと。
「主様」とやらに脅しあげられていたのだろう。
役に立ってみせよ。さもなくば捨てるぞ、と。
「捨てない」
だから私は言い切る。
捨てないでと懇願する彼を捨てるなど。
有り得ない。