第2章 【刀剣乱舞✕もののがたり】 岐の血とは恐ろしい。
それは余りに異質だった。せめて誰かいてもいいだろうに。
「む?」
突然、何かに気づいたらしい鼓が早足で駆けて行った。
気になり、吹枝と爪弾をちらと見れば頷かれた。
しゃがみこむ鼓に駆け寄り、声をかけようと口を開いたところで止まった。
鼓は尋常じゃない程怪我をした幼い少年を抱えていた。
見える限りの肌は痣だらけ。切り傷もある。顔はどれほど殴られればそうなるのか腫れている。
目にかかる髪をよければ、潰されたのか落ち窪んでいた。
着ている衣服は見るも無惨にボロボロ。
「あ」
「おや」
少年に気を取られていると、吹枝と爪弾が声を上げどこかへ歩いていく。
どこに行くのだろうと見ていれば、二人は五匹の白虎の仔を抱えて戻ってきた。
どの仔も美しかったであろう体毛を赤に染めていた。
息こそしているが動く気配はない。
どうしてこんなに酷い怪我をしているんだ。
そこかしこに沢山の気配があるから誰かいるとは思っていたが、こんな状態とは。
あんまりだ。
「可哀想に」
傷だらけの頬を、出来る限り優しく撫でただけだった。
見た目にそぐわない傷は、ただただ憐れで。
するりと一撫でしただけだったのに。
「え」
少年の怪我が治っていた。
いや、正しくは撫でたところは傷が消え、他は傷口が塞がり薄くなっていた。
どういうことなのか。
もしや審神者とはこういう能力(ちから)を持っているものなのか。やはり、説明されていないために仮定でしかない。
だが今はそれどころではない。
どこかに寝かせてあげたいが、生憎どこも穢れが酷く寝かせられる状態ではない。
それにこの本丸の探索が終わっていない。
仕方がないので、鼓に背負ってもらうことにした。
彼はそれなりの体格をしているから、安定するだろう。
ーーー
歩き出してしばらく、少年が目を覚ましたのか蚊の鳴くような声で呻いた。
鼓の歩みを止めさせ、少年の顔をのぞき込むとぱちりと目が合った。透き通る美しい琥珀の瞳だった。
「大丈夫か?先程倒れているところを」
見つけたんだと続くはずの言葉は、泣き出し抱きついてきた少年によって遮られた。
呆気にとられていると、鼓が少年をそっと下ろした。
下ろされたことで少年は益々抱きついてくる。
ボロボロと涙を流す少年は泣き声を堪えているようだった。
誰かに気づかれてはいけないのだと、そう訴えかけるように。