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混合短編集

第8章 【刀剣乱舞✕色々】チートな幼女の過去話


先程までは母の腕に抱かれていた赤子だったのに、今見ている彼女は現在の御前とさして変わらぬ背丈。
主立った違いといえば、髪の長さくらいだろう。

普段常に肩につかぬ程短くしている御前に対し、私の目の前にいる彼女は腰まである髪を一本の三つ編みにしている。


あんなに髪を伸ばしていた頃があったのか。
見慣れないという違和感が頭の中をぐるぐるとする。

ぼう、と二人を眺める私を他所に、女性は腕に抱く生まれて間もない赤子を幼子に見せた。

「この子が貴女の弟よ、████」

「わあ、ちっちゃい。かわいいね!」

幼子故に正直なその一言。
思うがままに口にされた言葉に、悲しげに笑う女性。
...この微笑ましい会話の何処に悲しくなる要素があっただろうか。
何か理由があるのか。
もしや、その理由が現在の御前が無表情である事に関わっているのか。
知りたい、その理由(わけ)を。

しかし無情にも答えが分からぬまま、知る事が叶わぬまま、景色が歪んだ。



ーーー

次は何処だ。

ぐにゃりと歪んでいた視界が徐々にはっきりとしていく。
明瞭とした視界に最初に映り込んだのは、微笑む女性の写真とそれを飾るように配置された花々。長方形の桜色の人が入る大きさの箱、そして箱に向かい合うように座す黒い喪服を身に纏う人々だった。


突然の光景に、言葉が出なかった。

あの女性は亡くなったのか。
となれば、あれは所謂、遺影。桜色の箱は、棺ということになる。
呆然とその光景を見つめていると、真後ろからなんとも不躾な言葉が聞こえた。


「やあね、なんて非情なの」

小馬鹿にするような、嘲るような女性の声に勢いよく振り返った。
喪服を身に纏う女性たちは、口元を片手で隠しこそこそと囁いている。ただどういう訳か、小声のそれは私の耳には酷く鮮明に聞こえた。


「母親が死んだのに泣きもしないなんて」
「泣かれてもうるさいから迷惑なだけだけど」
「ちょっと、聞こえるわよ」


遠巻きに御前の後ろ姿を見る女性たち。
諌める声すら謗っているようで、気分が悪かった。

少し離れた所に佇む幼い背中は俯き気味で、哀しみに暮れている。
母の死を理解できぬ齢の弟君を抱えた彼女の横顔は、泣くものかと言わんばかりに歪んでいた。


そんな御前の姿を見て何も思わないのだろうか、女性たちは疎ましそうに小声の話を止めない。
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