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混合短編集

第8章 【刀剣乱舞✕色々】チートな幼女の過去話


どうやら子が生まれた後のようで、先程の女性が赤子を抱きかかえていた。
男性は赤子の頬をつついて嬉しそうに笑んでいる。

赤子はまだ寝ているらしく、灰の瞳が良いだとか黒の瞳が良いだとか論議する両親の指を握りしめて眠っている。


あの赤子は成長したのち、私たちの御前となる筈。
まだまともに話せぬ、一人では何も出来ない赤子が。

嗚呼、何とも感慨深いものがある。
生命の神秘とは、こんなに胸が熱くなるものなのか。


不意にもちもちの柔らかそうな頬に触れてみたくなって、手を伸ばしたところで。

また景色が変わった。


今度は、比較的見慣れた物の多い日本家屋の一室だ。
今本丸としている屋敷に似通っている。
ここまでくるとこの状況に驚くとか怖いとか、特にこれといって思う事はなかった。
もっとこう、何か思えばよかったのかもしれないが。


それ以前に残念でならなかった。
触れられないのだろうと思えど、やはり触ってみたかった。あのもち肌を。
とはいえ、赤子の柔肌の触り心地の良さは既に体験済み。
御前の弟君の頬はふくふくしていて、つい頬擦りしてしまった程。


...ではなくて。
今がそんな状況ではないとハッとして、回想もそこそこに和室を見回す。

部屋には誰もいないようで物音一つしない。

(終わった、のか?)

見回せど、特に変わったところはない。
何を見せたいのか。何をさせたいのか。


(ッ!?)

突如背後からぱたぱたと、人が歩く音がした。

警戒を怠ったつもりは微塵も無いので、気配を察知しそびれるなどという失態は無かった筈なのに。
瞬時に依り代へと手をかけ振り返るも、その音の正体は私を“すり抜けた”。

「お母さん、赤ちゃんは!?」

その幼子は待ちわびたと言わんばかりに颯爽と、いつの間に現れていたのか例の女性に抱き着いた。
赤子を腹に宿し、夫であろう男性と笑いあっていた時より幾分年を重ねた女性に。
女性に擦り寄る幼子の表情は、嘘偽りのない満面の笑みだった。


私の知る御前はこんなふうに、無邪気に楽しげに笑ったりしない。
心優しさはあれど、いつもその顔(かんばせ)は無表情。
ましてや、満面の笑みなんて一度だって見たことがなかった。

あの御方はこんなふうに、笑ったりするのか...。
違和感が心を埋め尽くしもやもやした。


それにしても、一気に時間を跨いだようだ。
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