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混合短編集

第8章 【刀剣乱舞✕色々】チートな幼女の過去話


ならば、と認識されない筈なのをいいことに少しづつ近寄っていく。
もしも突然“存在”してしまう場合を考慮し、ばれない距離を保ちながら。


実のところ、近くで見てみたかったのだ。

何故腹に耳を当てるのか。
一応、答えは“知識”として知っている。が、それでは駄目なのだ。

こうして、説明しがたい奇妙な機会を得たのだから。
己の目で見て、感じて、知りたかった。


穏やかな雰囲気に混じる己の足音は、ひどく際立って聞こえた。

嗚呼、やはり不思議なものだ。
普通ならば距離が縮まれば縮まった分だけ、気づかれ易くなって当然だ。
視界に入れば、足音が聞こえれば誰だって気づく。


自分が此処に“存在”しないというのは、なんとも言えない不安定さを突きつけられたような気分で。

ここまでくると、いっそ幽霊にでもなった気分だった。
実際のところ、幽霊に近い立場なのだが。


ーーー

ようやく二人の顔が見える位置に来た。

女性は魅惑的とはいえ平面的な日本人顔。
男性は日本人とは思えない彫りの深い面立ち。
目鼻立ちがはっきりとしていて、人というよりは芸術作品と言った方が合いそうなくらい見目麗しい。

どこの国の者とまでは分からないが、その風貌から日本人ではないことは確かだ。
そうにしては違和感が感じられない程、会話に使用される日本語がとても上手だった。
日本に住んでいた事があるのだろうか。


様子を見守っていると、女性は顔をほんのり赤らめながら嬉しそうに笑んでは男性に問うた。

「男の子かしら、女の子かしら」

その微笑ましい問いに、男性はにやりとニヒルに、でも愛おしそうに笑ってみせる。

「生まれるまで楽しみにしておくんだろ?」

...人間の考える事はよく分からないな。
敢えて知らないままでおくというのは、楽しみなのだろうか。

男性はゆっくりと立ち上がり、女性を見下ろし、いや、大きく膨れた腹を見つめて言った。

「どちらであってもお前に似たらいい。そうすりゃ、誰よりも美しく優しい子になる」


その呪い(まじない)にも似た言葉は、まだ見ぬ我が子への、愛ゆえの希望であり願いでもあった。
人間誰しも“親”であるならば抱く願い。


自分ではなく伴侶に。
そして、良い所だけ似て欲しい、と。

誰よりも見目麗しくあれ。
誰よりも頭脳明晰、優秀であれ。
誰よりも心優しくあれ。
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