第8章 【刀剣乱舞✕色々】チートな幼女の過去話
息を整え、これで終わりと勝手に判断し格子戸に手をかけようとする。と。
「ッ?!」
不意を突くように死角である頭上から、物音など一切なくひらりひらりと落ちてくる紙。
一体何なんだ。
反射的に掴んだ紙の存在に驚く間もなく、真白なそれに瞬く間に書かれていく“知るべきものはこの先に”の文字。
...斬り捨てるところだった。
戸の周りの壁、自らの手の中にある紙。
どちらもたった今書かれた事を示すようにじわ、と重力に従い、滲み垂れる。
“知るべきもの”
心当たりがあるとすれば、御前(ごぜん)の事だ。
以前、御前が如何様にして本丸にお出でになったのか、と尋ねたところ。
突如門が開き、男の声と共に御前がやって来たのだと山姥切殿が仰っていた。
御前にお伺いしても、どうあっても教えて下さらない。
別にあの御方に不満があるとか疑っているとか。そういう訳ではないのだが、気になって仕方がなかった。
何故男の声がしたのか。
何故御前は斯様(かよう)に幼いのか。
以前演練に出向いた時耳にした話では、審神者になれるのは18歳以上であるという。
だというのに、我が主は齢(よわい)8つになられたばかり。
特例というにはあまりに幼い。
何か訳があるのだろうが。
ではどんな?
それを知りたくば。
(入れ、という事か)
意を決し、自分の依り代の位置を確認しつつ扉の取手に手をかける。
心のどこかで「開かなければいい」と思う反面、「開いてくれ」とも思う。
しかし、開かねばこの状況を打開する術(すべ)はない。となればやはり開いて欲しい。
思い通じてか鍵はかかっておらず、からからと軽い音を立てすんなり開いた。
開いたことへの安堵と、この先に待ち受けるであろう何かに警戒し物音をたてないようにそっと中に入る。
家の中も外にあったその他住居同様、本来の色はなく白黒だった。
またか、と辟易した。
靴を脱ごうか悩んだのだが、念のため脱がずにおくことにした。
少し狭めの玄関を見渡しても特にこれといって変わった物はない。全てが白黒である以外は。
す、と一歩踏み出したところ、廊下の壁一面に、ある部屋に向かってまた赤の大きな矢印。
さらに白黒の床には子どものものだろうか、小さな足跡が誰もいないのに歩いていく。
幼い足跡は赤く、その赤は黒いだけの廊下では異様に際立って見えた。