第8章 【刀剣乱舞✕色々】チートな幼女の過去話
私は、弟たちと“普通に”就寝した筈だった。
ーーー
不意に、説明の出来ない気味の悪い“何か”を感じ、閉じていた目を開く。
「は?」
ここは何処だ。
きょろと見回すが見覚えのない建物、風景。何の気配もない違和感だらけの住宅街。
周りの風景全てに有るべき色はなく、単調な白黒。
まるで自分の目がおかしくなってしまったと錯覚するほどの光景。
自らの服装にはたと気づく。戦装束なのだ。腰には勿論依り代がある。
しかし就寝用の寝間着から着替えた覚えなどない。
どういうことなのか悩むが分からず、代わりに連想げえむのごとく思いついた事がある。
この摩訶不思議な空間に弟達がいるのではないかと。
今のところ、一緒に眠った筈の弟達の気配は何処からも感じられない。
...いない事を願いたいものだ。
もやもやしながらも神経を研ぎ澄ませ、いつもならば何処にいようとも感じられる我が主“赫映御前(かぐやごぜん)”の霊力や神力を探す。
探していると、ある一軒家に目が止まった。
西洋の家が建ち並ぶなか、唯一和の、今現在本丸として暮らす屋敷に通づるものを感じる古風な家。
そこから薄らと御前の霊力が感じられた。
少し遠いうえ怪しい。行きたくない事この上ないが、警戒を解くことなくその一軒家まで歩く。
こつ、こつと響き渡る自身の足音が妙に耳についた。
所狭しと建つ家々を見渡すけれど。
空も周りの家々も、己の歩む道も何一つ、これまで普通だと感じてきた色はない。
此処が現代であるというならば。かつて、前主に同行した時のような現代なら。
人々の喧騒、耳に残る機械音、夜になっても消えぬ灯りが常に在った筈。
それらが一切無い。
本当におかしくなりそうだ。
そして、いざ辿り着いてみれば。
目の前にある小さな一軒家だけに不自然に色があった。
いや、不自然というのはおかしな話だ。
当たり前な色のはずなのに、周りのせいで異物感が凄い。
何か意味或いは理由があってこの家だけ色があるのだろう。
そう考え、玄関へと続く飛び石を踏み、古びた格子戸へと近づく。
最後の飛び石を踏みしめ近づいた瞬間、突如何かを幾度も叩きつける音が響く。
音と共に、戸の周りには大量の赤い手書きの矢印。
けたたましい音に驚き、警戒をしつつも立ち竦んでしまった。
鶴丸殿ではないが、これは驚いた。
嗚呼、心臓に悪い。