第5章 【ワンピース✕東京喰種】ドジな俺と異世界人
何とも不思議な、どこか恐怖を感じる双眸が俺を見つめる。
少女は人好きのする微笑みを見せ、優雅な動作で俺に右手を差し出した。
「はじめまして、ぼくはツカサ。喰種(グール)だ」
差し出された右手を、俺はすぐには握れなかった。
それはドラゴンが人間になったことへの驚愕か。
「喰種(グール)」という未知の言葉への畏怖か。
それとも珍しく働いた勘が感じ取った、ツカサへの恐怖か。
分からなかった。
何かにモヤモヤしていた。
ドラゴンが人間になることは、悪魔の実の能力者だといえばそれまで。
けど、能力者であるならば霧散して元に戻るのではなく、収縮するように戻るはず。
それに「喰種(グール)」という聞いたことのない言葉が大いに引っかかっていた。
何がどう引っかかるのかと問われると答えられない。
分からないから。
色々考え込んでしまったら頭の中がぐちゃぐちゃになり、ただただ彼女の手を見つめていた。
この手を握り返していいのか。
この少女を信じていいのか。
分からない。
何が分からないのかも、分からない。
いつまでたっても握手しようとしない俺の様子を訝しんだ彼女は、微笑んだまま首を傾げた。
「握手くらいして欲しいのだけど」
「あ゙っ」
その言葉にハッとし、慌てて差し出された手を握る。
ちょっとひんやりしている手だった。
ツカサは至って普通の笑みを浮べているはずなのに物凄く威圧を感じ、冷や汗で背中がびっしょりだ。
これは、怒らせたらヤバいやつ...。
俺の顔がこわばっていることに気づいた少女は、その理由を違う意味で察したらしく。
一度目を閉じ、すうと開くと赤黒い双眸はどこにもなく、普通の黒い瞳になっていて。
「これでいいかな。ねえ、喰種(グール)が怖いかい?」
一応、彼女なりに気を使ってくれたらしい。
それにしてもまただ。また「喰種」。
何なのかと聞こうにも、彼女の笑顔に紛れる威圧が怖くて聞けない。
もっとも、本人にそんなつもりはないのかもしれないが。
ただ、その問いになんと答えれば正解なのか分からず、きゅっと口を噤んだ。
結局答えない俺にしびれを切らし、俺の胸ぐらを掴んで引き寄せ、顔を覗き込んできた。
鼻がつきそうな程近づくのは、子どもから大人になろうとする独特の美しさが際立つ少女の顔(かんばせ)。