第5章 マリッジブルー(縁下力/シンデレラ)
いきなり2人きりになっても会話は無い。
どうすれば良いか分からないけど、取り敢えず家に帰った。
「…りこ。」
「何?」
「明日、本当に休むなら、一緒に資料貰いに行こうか?」
家に入ってすぐ、玄関で一番に始めた会話がこれで。
キャンセル入れたなんて、言い出せない。
「りこ、大丈夫だよ。俺、朝の内に連絡してあるから。
喧嘩して、ヤケになって資料破いてしまったから、もう一度作って下さいって。ついでに、りこからキャンセルの連絡あったら、受けたフリだけしてって。」
だからキャンセル料発生しなかったんだ。
本当は、キャンセルになってないから。
安心して、体の力が抜けた。
支えるように腰に回る腕が優しい。
「…明日、休むって田中さんに連絡するから、一緒に行ってもいい?」
「勿論。」
柔らかく笑う顔が近付いて、唇が重なった。
それが離れる事は無く、寧ろ深くなっていく。
口腔内を舌で掻き回されて、呼吸が上手く出来なくて、思考がぼやけた。
「悪いけど、真面目な話はここで終了な。…今は、凄くりこを抱きたい。」
やっと離れた唇が耳に近付いて熱い吐息と共に声が吐き出される。
それだけで、ゾクゾクと背筋が震えた。