第5章 マリッジブルー(縁下力/シンデレラ)
「力ちゃんの本心、知りたいべ?」
居酒屋の喧騒の中では、隣の席には届かないだろう社長の小さな声。
これ以上の本心、何を聞かせてくれるつもりなんだろう。
分からないけど、悪い事では無い気がしたから頷いた。
「あぁ、式の準備も大変らしいからね。それで、シンデレラちゃんキレちゃって、式は挙げないっ!とか言い出した?」
「まぁ、そんな所です。俺も意地になって止めなかったんですよね。」
「両方が意地になっちゃったら、行き着く先は別れだよ。それで良い訳?」
「良くないですね。俺は、彼女と生きていきたい。」
やっぱり、悪い事じゃなかった。
泣きそうなくらい嬉しくて、声を掛けたかったけど、社長に首を振られる。
まだ、何かあるのかと思ったら…。
「…じゃ、後ろ向いて、もう一回言ってみて。」
「後ろ?…りこ!と、社長!なんで、ここに…。
もしかして、今の全部…。」
「聞いてたぜー。彼女と生きていきたい、なんて、カッコイーじゃねーの。」
力さんをからかう為に、向こうから気付かせたかっただけみたいだ。
相変わらず、社長は質が悪い。
でも、このノリで生きている所が、彼の良い所でもある訳で。
「よっし!力ちゃん、明日オフな!大熊りこも、明日は休め!」
勝手に私の休日まで設定し、店から私達を追い出した。