第5章 マリッジブルー(縁下力/シンデレラ)
突然、腕を掴まれる。
逃げずに用件を聞くくらいするから離して欲しい。
「飲み行かね?前祝いって事でさ。」
振り払おうとする前に、軽い口調で誘われて、了解もしない内に腕を引かれる。
嫌がっても、勢いで丸め込みにくるから面倒くさくて、従う事を選んだ。
連れていかれたのは、普通のチェーンの居酒屋。
お祝いのつもりなら、もうちょっと良いとこに連れてきて欲しい。
そんなワガママ、言っても聞かないと思うから口には出さないけど。
諦めモードで案内された席に着く。
ここはタブレットみたいな機械で注文するシステムらしくて、機嫌の悪さもあって黙ったまま注文を済ませた。
飲み物が出るまで、数分。
不思議な事に社長も何も話さない。
ただ、ニヤニヤしているだけだ。
「何を笑って…。」
「しっ!」
突っ込もうとしたのに、口の前に指を1本立てた黙れを意味する仕草をされた。
その指先が、私の後ろを指差す。
振り返ると見えたのは、隣の席との間に設けられた仕切り。
上の方に柵のような隙間があって、向こう側が少しだけ見えた。
そこには、力さんと及川徹が座っている。
社長が、私をここに連れてきた理由が分かった。