第5章 マリッジブルー(縁下力/シンデレラ)
仕事中も、考えるのはそんな事ばかり。
幸いなのは社長が現場に出ていて、事務所には私しか居ない事だ。
多少手が止まっても、咎める人も居ない。
イライラし続けながらも、本日の業務は終了させて、予定の通りプランナーさんに電話を掛ける。
キャンセルを伝えると、すんなり受け入れてくれたどころか、キャンセル料とかも要らないって話で。
これで、私ばかりが苦労する準備もしなくて済むと思うと、何の疑問すら持たずに電話を切った。
重い荷物の内の1つが無くなったのに、まだ何故か体が重い気がする。
…いや、実際に重い。
何かが背中に寄り掛かってきている。
「よ、地味子!」
振り返ろうとした時に聞こえたのは、会いたくもない諸悪の根元。
連日連夜、力さんを連れ回して、現在の状態にした社長の声だった。
電話に気を取られて、気配に気付かなかった私にも非はあるけど、のし掛かってくるのはどう考えてもおかしいよ。
せめて、肩を叩くくらいにすれば良いのに。
「…何か用ですか?」
まぁ、そんな事をこの照島社長に言っても無駄なのは分かりきっているから、さっさと用件を言わせようと促す。
まさか、たまたま通り掛かった訳じゃないだろうし、私に用事があるんだと思った。