第3章 祭りの夜に(黒尾鉄朗/単発)
見詰め合う事、数秒。
更に顔が近付いて、唇を何かが掠める。
これだけ近いのだから、どこかが偶然当たっただけだと思ったけど、黒尾さんは伺うように私を見ていて。
少し、期待を込めて目を閉じた。
ちょっと間を空けて、再び唇に何かが触れる。
今度は、しっかりと柔らかい感触が分かった。
キスをされている。
雰囲気に流されたとか、そんなやつ?
このまま、自分まで流されちゃ駄目だ。
目を開けて顔を引く。
「あ、あの…花火…。」
「上ばっか見てるの、辛くね?横になった方が見やすいだろ?」
誤魔化すように口にした言葉は墓穴を掘っていた。
抵抗する前に、シートの上に押し倒される。
笑う黒尾さんの肩越しに、小さく花火が見えた。
こんなロマンチックな状況なら、流されても良いかも知れない。
そう、思ったけど。
「言っとくが、イイ感じだからヤっちまおうとか、適当な気持ちじゃねぇから。」
私の心を読むように、低い声が降ってきた。
その言葉だけで、黒尾さんの気持ちが伝わってくる。
「…私も、流されてるだけじゃ、ないですよ。」
自分の気持ちも伝えたくて。
求めに応えたくて。
両腕を広げて、受け入れる意思を示した。