第3章 祭りの夜に(黒尾鉄朗/単発)
どこに行くか、分からない。
階段を上がっているし、学校から出る気じゃなさそうだから、お祭り会場に戻る訳じゃないらしい。
上りきった終着点。
目の前には、鉄の扉。
屋上に出られるみたいだけど、普通は鍵が掛かっている筈だ。
それなのに、黒尾さんは平然とドアノブを回して、それを開けた。
「昼に見付けたんだが、ここ、鍵壊れてんだよ。…他の奴には内緒だぞ?」
「何で、こんな場所に来たんですか?」
「それは、ヒミツ。」
妖しく笑う顔に負けて、それ以上は何も聞けず、促されて外に出た。
その場所には、多分昼の内に運んだんだろうレジャーシートが敷かれている。
並んでその上に座ると、手が離されて腰に回ってきた。
「…あの、お祭りは?」
密着した体勢で、無言が続いたら心臓が壊れてしまう。
すでに、祭りなんかどうでもいい、って状態だったけど、話のネタとして声に出した。
「祭りには、出店以外の楽しみ方もあるだろ?」
まだ、何かを隠したような物言いだったけど。
顎を上向けて、空を示されから、分かってきた。
それが、正解だと告げるように遠くから掠れた笛のような音が聞こえてきて、夜空に光の花が咲く。
「…ちょい、遠いけどな。中々、いい場所だろ?」
数発の花火が上がる中、その音に紛れて聞こえる声に反応して、そちらを向いた。
顔が物凄く近い。
光を反射する黒尾さんから目を離せなくなって、頷く事すら出来なかった。