第3章 祭りの夜に(黒尾鉄朗/単発)
私を見下ろす眼は、怒っているような、呆れているような。
そんな顔をしている理由は、すぐに判明した。
「戻るなら連絡くらいしなサイ。心配するだろ?」
ただ、保護者ぶった顔をしたいだけだ。
間違っても、私だから心配してくれた訳じゃないって分かってるのに。
私の為に、戻って来てくれたのは嬉しい。
「ごめんなさい。ちょっと、人混みに酔っちゃって…。」
「それなら、尚更連絡しろ。女のコ、1人で夜道歩かせる訳にいかねぇんだから。」
素直に謝っても、許してはくれないようだ。
まるで、子どもに向けるような事を言われて続けている。
折角の、2人きりなのに、ただ怒られてるだけなんて嫌で。
「女の子を1人にしておけないなら、お祭りに戻って下さいよ。あのマネージャーさん、1人になっちゃいますよ?」
説教を止めたくて、思っても無かった言葉が口から出た。
「…ふーん?大熊は、それで良いんだな?」
不愉快そうに眉を寄せた顔。
それは、すぐに背を向けられて見えなくなった。
良くない、と言って引き止めたいのに声が出てこない。
1歩ずつ、ゆっくりと黒尾さんが遠くなっていく。
「…俺は、大熊と祭り回りたかったなァ?その為に、あの女、撒いたんだけど?」
少し離れて止まった黒尾さんの足。
軽く振り返って見せてきたのは、口角を上げた笑顔。
私の気持ちを知っていて、からかってるんだろうか。
それでも、今の言葉に乗ってしまいたい。
近付くように、1歩踏み出す。
「良くない…です。私、黒尾さんと一緒に、居たい。」
引き止めるように、伸ばした手は、体ごと完全に振り返った黒尾さんに掴まれて、指先を絡められる。
恥ずかしいのに、振り払うなんて勿体無くて、手を引かれるまま隣を歩いた。