第1章 お兄ちゃんと呼ばないで/hr
久々の最俺さんたちと再会の席は大いに盛り上がり、当然のようにお酒の量も増えていった。そして、私も含めて皆さん程良く酔いが回ってきた頃、事件が起こる。
突然、空になったビールジョッキをドンッと机に置いて、全員を静まり返らせてから、キヨさんが口を開いた。
「あのさー、めっちゃ気になってることがあるんだけどさー、」
誰かさんたちのラジオ動画で聞き覚えがある会話の切り出し方である。
「夢子ちゃんにとってのヒラって、なに?」
「え……えっ!?」
ご本人がいる前でなんて事を聞くのでしょうか、このお方は!?
「だって俺らが夢子ちゃんと出会ってもう1年近く経ってんのに、その中でもお前ら特別仲良くしてるっぽいのに、なーんにも良い話聞かねえんだから、気になるじゃん!」
「そ、そんなこと、言われても、」
キヨさんは恐らく、私のヒラさんに対する気持ちをわかってて、敢えて聞いている。酔っている筈なのに真っ直ぐ私を見据える彼の鋭い目が、そう思わせた。
顔が一気にカァッと熱くなった。恐る恐る、隣に座るヒラさんの顔をチラリと盗み見る。彼はどこかキラキラした期待の眼差しで私を見ていた。目が合って、気まずくなってプイッとすぐに目を逸らす。
私にとってのヒラさん、それはもちろん、一目惚れをした、大好きなひと。で、でも、本人の前で、周りに彼のお友達がいらっしゃる中で、そんなことっ、言えるはずない!
「えっと、ヒラさんは……面白くて優しくて可愛くて、私が困ってるといつでも助けてくれる、素敵な、お兄ちゃんみたいなひと……です、かね」
あはは、と苦笑混じりに嘘を答えて、この場を何とか乗り切った。──つもりだった。
今度はちゃんと隣のヒラさんの方へ顔を向ける。彼はまるで、世界滅亡寸前のように絶望しきった顔をしていた。さっきまで輝いていた目は光を失い、沼底のように暗く濁っている。
「オニイチャン」
「ひ、ヒラさん?」
「うッ……うわあああああ!!!!」
な、泣いたーーーッ!?!?
急に大声をあげたかと思えば、両目からぼろぼろ大粒の涙を溢れさせて、わんわん泣き始めてしまったヒラさん。
え、えっ、そんなに"お兄ちゃんみたい"って言われることが嫌だったんですか!? わからないけど、彼の何か触れてはいけない心の傷を抉ってしまったことだけは確かだった。