第1章 お兄ちゃんと呼ばないで/hr
ヒラさんに案内されてやってきた居酒屋は、もうすっかり夜も更けた時間だから賑やかで、店の二階のお座敷には最終兵器俺達のメンバーさんたち──奥の席からキヨさんの笑い声、こーすけさんの笑い顔、手前の席にフジさんらしき後ろ姿が見えた。
キヨさんが一番先に私たちに気が付いて、おぉーい、と声をかけて手招きしてくれた。こーすけさんも元気に手を振ってくれて、フジさんもこちらを振り返る。
「ヒラおっせえーよ! 夢子ちゃん迎えに行って、そのまま家まで連れ帰っちまったかと思ったわ」
そんな冗談を言ってケラケラ笑うキヨさん。
「はッ、その手があったか」
「いやいや、何考えてんのお前。まだ付き合ってもない子を家に連れ込んじゃダメでしょ」
冗談に冗談で返す真顔のヒラさんを、おいおいと苦笑いで突っ込んでくれるこーすけさん。
「夢子ちゃん、こっちおいで! 俺の隣!! ほらほらっ」
フジさんにぽんぽんとお隣の座布団へ座るよう促されたので、私は喜んでお邪魔した。
「えっ、ちょ、ちょっとフジ! 夢子ちゃんに手を出したら、いくら友達でも俺怒るよ!?」
「もう怒ってんじゃん。俺にはそんなつもりないし、可愛い妹分と久々に会えて嬉しいだけだって、ほら、こっちの席まだ空いてんだから、ヒラも夢子ちゃんの隣に座れば良いべ。まったく、嫉妬深い男は怖いなあ、ねえ?」
急に同意を求められても私は何と答えたら良いか分からず、とりあえず微笑むしかなかった。と言うよりも、フジさんと対抗するように私の隣にぴったり寄り添って座ったヒラさんが可愛くて可愛くてニヤけていた、という方が正解です。
やだわーもー、なんて井戸端会議中のご婦人のように口元を押さえてニヤニヤ笑っているフジさん。
ふふ、相変わらず、賑やかで楽しいひとたちだなあ。