第1章 お兄ちゃんと呼ばないで/hr
彼と出会ったのは一年前。
とある動画配信サイトの大型イベントにスタッフとして参加した私は、リハーサル中の舞台裏で機材に足を引っ掛けて、盛大に顔面からすっ転んでしまった。そんな酷いドジをやらかした私に、大慌てで駆け寄り「だいじょうぶ!?」と声をかけて抱え起こしてくれたのが、出演者のひとりであるヒラさんだった。
一瞬で恋に落ちた。
頭から首までぴったり覆い隠す黒いマスクをしていても、関係なかった。心配で今にも泣きそうに震えた目、少年のような可愛らしい声、私の身体を支える頼もしい手、全てに心奪われた。
一目惚れだった。二度目にお会いした時は初めて素顔を見て、もっともっと大好きになった。
私の四歳年上で、最終兵器俺達というグループのひとりとしてゲーム実況を続けていらっしゃる彼は、今でも私の憧れ。
あの衝撃的な出会いのどこで私を気に入ってくれたのか不思議だけれど、初対面の後すぐに連絡先を交換して以来、今日のようにお友達との飲み会に誘ってくれたり、ゲームセンターや映画館など色々と遊びに連れて行ってくれたり、年下の私をよく可愛がってくれる。
彼にとっての私はたぶん、放っておけない妹──みたいなものなんだろうと、思う。
悲しいけど、こうして手を繋いだり、頭を撫でてもらったり、特別に可愛がってもらえるだけ、私は幸せだ。
それで十分だと、これ以上求めるのは贅沢だと、私は今日も自分に言い聞かせるのだった。