第3章 かわいいヒーロー/hr
「や、やめて、くださいっ」
怖い。せめて肩に触れる手だけでも払いたかったが、びくともしない。逆に、払おうとした左手を掴まれてしまった。ぞわっと悪寒が走る。
最俺の皆さんと変わらないほどの年齢に見えるのに、あのひとたちのような優しい雰囲気はカケラもない。同じ男性のはずなのに、全く違う。私を見下ろす三つのいやらしい眼差しは、まるで恐ろしい化物のようだった。
「待ち合わせっ、しているので……! は、はなして、」
「あ、そうなんだー。女の子ー? その子も誘って行こうよ、ね?」
「ひッ」
見知らぬ男の手が、私の腰をするりと撫で上げた。きもちわるい。きもちわるい。痴漢被害にあったひとが咄嗟に助けの声をあげられない、というのは本当だったんだ。怖くて、身体が震えて、なにもできない。嫌だ。やだ。
「っ、ゆうた、さ、」
たすけてッ──
「ねえ、何してるの?」
──ヒラさんの声だ!
私の正面を塞ぐ男の背後に、彼が居た。振り返った男の顔を冷やかに見つめていたが、私と目が合うと安心させるように少しだけ微笑んでくれた。こんな状況なのに、心臓はどきんと高鳴る。
「あ? ンだよお前、邪魔すんなよ」
……が、正面の男に睨まれた途端、彼の表情から一切の笑みは消えて、目が据わる瞬間を見た。あ、これは相当、怒って、らっしゃる。
「悪いけど、その子は俺の彼女さんなんだよね。邪魔はお前らの方だから、どっか行ってくれる?」
「はあ〜? お前みたいなチビにこんな可愛い彼女がいるかよ、お子ちゃまはママのとこへ帰んな。シッシッ」
「ゔ、確かに、何でこんなに可愛い子が、俺なんかを好きになってくれたのか……不思議では、ある、けど……」
な、なんでそこで自信喪失しちゃうんですか、ヒラさん!?