第3章 かわいいヒーロー/hr
ヒラさんのお家近くの最寄駅に降りて改札を抜けると、ぴろん、鞄の中でスマートフォンがタイミング良く軽快な音を鳴らした。すぐに取り出して画面を見れば、彼からの新着メッセージが届いていた。
『ごめんね五分だけ待ってて!』
電車を降りる前、もうすぐ着きます、と一言送った私への返信だった。ぺこぺこと土下座しているうさぎのスタンプ付きで、かわいい。自然と笑みが溢れる。
五分くらい気にしないのに律儀だなあ、なんて思いながら近くの柱へ凭れ掛かり、彼を待った。
今まで彼とは、映画館やゲーセンなどでデートをしたり、激辛ラーメンが名物のお店へ食事に行ったり、最俺ハウスでゲームをしたり、付き合う前からよく遊んでいたけれど。彼のお家へ遊びに行くのは、初めてだ。なんだかドキドキそわそわ緊張してきちゃう。
……それに、この辺りへ足を運ぶことは普段無いから、あまり見慣れない駅の風景にひとりぼっち、というのは少しだけ不安な気持ちにもなる。ううん、たった数分の待ち時間だから、大丈夫。彼にも『大丈夫ですよ、待ってますね』とメッセージを送る。
その直後であった。
トントン、と誰かに指先で肩を叩かれて、私はすぐに携帯の画面を閉じてパッと顔を上げた。一瞬、ヒラさんが早くも迎えに来てくれたのかと思った。違う。
「お姉さん可愛いねえ、今日ひとり?」
だ、だれ──?
「誰かと待ち合わせしてんのー?」
「ね、俺ら奢るからさ、良かったら飲みに行かない?」
にたにたと下卑た笑みを浮かべて私を取り囲む、三つの男の顔。ひとりは正面に立ち塞がり、もうひとりは私の右隣で柱に手をついて、更にもうひとりは私の左隣で馴れ馴れしく肩に触れてくる。に、逃げ場が、ない。