第3章 かわいいヒーロー/hr
ヒラさんはとても可愛らしいひとだ。
目を細めてふにゃっと蕩けるような笑顔も、少年のように無邪気で高い声も、独特な言い間違えだって、彼のファンである私には可愛いと思えてしまう。
彼のお友達であり同じグループの実況仲間である皆さんには、ぶりっ子とか、あざといとか言われてしまっているけど。
いつだったか「俺ってそんなにあざといかねえ」と心底困り果てた顔で問われた事がある。私は褒めるつもりで「ヒラさんはあざと可愛いんですよ」と答えたが、彼はむっすり不機嫌になってしまい、しばらく口を聞いてくれなくなりました。ご本人にとっては"可愛い"を褒め言葉として受け入れられないらしい。
でも、やっぱりヒラさんは可愛い。つい数分前まで彼と交わしていたメッセージアプリ上の会話を眺めながら、私はひとりニヤニヤしていた。
『ねえねえ、夢子ちゃん』
『なんですか、悠太さん』
『今日ってバイトおやすみだよね』
『お店の定休日ですからね』
『明日の授業は?』
『三限から出る予定です』
『じゃあ、今日はうちにおいで!』
『えっ』
『鍋パしよ、鍋パ。あ、材料とかは俺が用意しちゃうから心配しないで。夢子ちゃんはうちに来てくれるだけで良いよ!』
『えっえっ』
『だめ? もしかして、学校のお友達とごはん食べに行く約束とかしてる?』
『いえ、この後は何にも予定ありません。寧ろ、良いんですか? ご馳走になっちゃって』
『良いに決まってるよー、遠慮しないで。夢子ちゃんはもう俺の彼女さんなんだから』
『では、お言葉に甘えてお邪魔しますね。ありがとうございます、楽しみです』
『やった! 駅まで迎えに行くね♡』
ハートの絵文字に、ぴょんぴょん大喜びで跳ね回るうさぎのキャラスタンプを使いこなす、私より四歳年上の成人男性。これはあまりにも可愛すぎるとは思いませんか。
ガタンゴトンと揺れる夕方の電車内。五限が終わった後の帰りの電車って、人が多くてぎゅうぎゅう詰めで憂鬱なんだけど、今日はそんなこと全く気にならなかった。吊り革に捕まって愛用のスマートフォン越しに彼との会話を眺めていれば、嬉しくて幸せで身も心もふわふわ浮いてる気分だった。
ああ、誰か私の顔を見た乗客さんが居たら、きっとドン引きしていることでしょう。それくらい、今の私の表情筋は緩々でだらしないと思います。