第26章 いつぞやの会話-酔眠編-
「談話室で飲むのも久しぶりだな、エルヴィン」
「仕事の合間と貸し切りのタイミングが中々あわなくて、このワインも随分と寝かせてしまったが…口にはあったか?」
「うむ、味だけでなく香りも上等だ」
「君にそう言って貰えると安心するよ。それにしても……」
「…すぅ…すぅ…」
「また眠ってしまったか。案外アルコールに弱いんだな。なんて可愛らしい」
「…また?」
「あぁ、まただ」
「エルヴィン、お前と飲むと、ナナバはいつもこうなのか?」
「そうだな、外では流石にないが、執務室、食堂、私の部屋…内で飲むと大抵はこんな風だ」
「そうか…。珍しいな」
「珍しい?」
「あぁ、珍しい」
「ミケ、ナナバは君と酒を飲んだ時はこうはならないのか?」
「………」
「…ミケ?」
「……、…は…」
「うん?」
「…今は、二人では行っていないぞ」
「は……?あぁ、成程、…ふ、ふふふ」
「なにを笑っている」
「いや、すまない。聞き方が悪かった。大丈夫、なにも疑って聞いたわけじゃないんだ」
「そうか…」
「よかったら聞かせてくれないか」
「…昔は、お前と付き合い出す前は、たまに飲んだ。勿論、他に居たときもあった」
「すぅ…すぅ…」
「割りと飲む方だと思う。ゲルガー程ではないがな」
「彼は特別だな。量もそうだが、どれだけ飲んでも実に旨そうにしているのが見ていて気持ちがいい」
「ああ、ある種の才能だろうな」
「んん、…すぅ…すぅ…」
「ナナバは、酔うと雰囲気が軽くなる…というのは常だったが、寝はしない」
「ふむ」
「酔ったせいで自我を無くす、ということもなかったからな。正直驚いている」
「成程。なんとも不思議だ。確かにこれはいいワインだが、特別なにか、ということは…」
「…むにゃ…エルヴィン…」
「ここにいるよ。寒くない?大丈夫?これ掛けておこうね」
(随分と甲斐甲斐しいな……それに、頬が緩んでいるぞ)
「これでよし。さて、そろそろお開きかな」
「エルヴィン、先に戻れ」
「いやしかし」
「片付けは俺がやる。ナナバを連れて、お前も休め」
「…お言葉に甘えるとしよう。すまないね」
「気にするな。適当につけておく」
「お手柔らかに頼むよ。それじゃ、おやすみ」
「あぁ、おやすみ、二人とも」
fin