第21章 いつぞやの会話-事後編-
「…すぅ…」
(よく眠っている…。しかし流石に、無理をさせてしまったかな)
「…ん…」
(久方ぶりだ。その上あんな積極的にしてくれるなんて…ついついがっついてしまったよ。赦してくれるかい?)
「…ん…エル、ヴィン…」
「ここにいるよ」
「…ぅ、ん…」
「目、覚めたかな」
「うん…」
「じゃ、着替えようか…あぁ、ほら、そんなにこすったらだめだ。赤くなってしまう」
「うん…」
「こら。まだ半分寝てるね?」
「うん…」
(うとうとする顔も、また可愛らしい)
「エルヴィン…」
「大丈夫、側にいるよ。そうだ、昔話でもしてあげようか。王子様とお姫様のお話」
「うん…」
「昔々あるところに、一人の王子がいました。
何よりも王族としての責務を第一とする王子は、大勢に囲まれる中でも常に一人でした。
そんな王子へ、将来の王として人々は賛辞を送ります。しかしその陰で"愛を知らない悲しい人"と蔑み、それを知った王子もまた『愛する人など必要ない。……必要としてはいけない』そう自分に言い聞かせるようになります。
そうして、冷たく孤独に過ごす日々。ですが、ふと不思議な何かに導かれ…ついに運命の人と出会います。それは、咲き誇る花の様に美しく、春の陽だまりの様に暖かな心を持つ、誰よりも優しい姫でした。
お互いに惹かれあう二人…。ですが、王子はどうしても姫を冷たくあしらってしまいます。
『誰かを好きになる事も、愛する事も、一度たりとてなかった。何も知らない自分はきっと、姫を傷つけてしまう』そう思ったのです。
孤独だけを友とする王子…
誰にも優しく、誰からも愛される姫…
人々は『不釣り合いだ』と口にします。
それでも姫は笑顔を絶やしません。何時も、どんな時も…王子に寄り添い、支え、暖かく包み込んでくれました。
そんな姫の存在が、王子の冷たく孤独な心を少しずつ満たしていき…とうとう、王子は"愛"を知るのです。
こうして王子はその長い生涯を閉じるまで、愛を持ち、心穏やかに暮らすことが出来たのでした。誰よりも愛する姫と共に……」
「よかった…」
「これでおしまい。気に入って貰えたかな?」
「うん…。あのね…エルヴィン」
「ん?」
「…お姫様が優しいのは、王子様が優しいから…エルヴィンが優しい、から…だよ…。………すぅ…」
「そうか…。……ありがとう、姫」
fin