第22章 いつぞやの会話-記録編-
「あ、のさ」
「ん?」
「お前、さ……」
「何?」
「………」
「どうしたのゲルガー。珍しく歯切れ悪い」
「……、…ぁ、アレ、いいのかよ…」
「アレ?アレって何?」
「この間、見ちまったんだよ。お前の、その…団長が…」
「あぁ…"毎日の服装の記録"のこと?」
「……、知ってたのか…?」
「結構助かってる」
「へ?」
「エルヴィン、すっごい細かく書き込んでなかった?」
「あ、あぁ…お前の言う通り凄かったぜ。書き漏らすなんてあり得ない!っていうくらいびっしりだった」
「あのエルヴィンだからね。うーん、そうだなぁ…例えばだけど『このシャツは何日前に着たっけ』とか、『あれとこれの組合せはしたことあったっけ』とか。気になったら何でも聞けば教えてくれる。お陰で着る物を選ぶのに困らなくなった」
「成程な…」
「これが知らない誰かだったら流石に困るけど、出所が分かってるから。あ、これでもね、いろいろ妥協してくれたんだよ?」
「あれで!?」
「はは、やっぱり驚いた」
「そりゃ驚くだろ…」
「最初は『毎日の君の行動記録を付けたい』って言われてね。例えばどんな?って聞いたら『全部』って」
「ぜ、んぶ…?」
「そう、全部。起きてから寝るまで全部。それこそ風呂からトイレから瞬きの回数まで」
「まば…、…あ、ぁ…と……トっ?!」
「ぷっ」
「お、お前、笑いごとじゃねぇって!ヤベーだろそれ!!!」
「だから妥協してもらったんだってば。記録するのはいいけど、服装だけにしてって」
「へ、へぇ……」
「最初はすっごく落ちこんでたけど、全部は恥ずかしいし、そもそもそんな事しなくてもいつも一緒でしょ?って言ったらすぐに納得してくれたよ」
「……(ナナバも随分逞しくなったな)」
「兎に角大丈夫。私は困ってないし、嫌でもない」
「そうか」
「だから、あまり気にしないであげて」
「分かった。ま、何にせよお前がいいならいいさ。悪かったな変な事聞いて」
「いや、誰だってびっくりするのは当然だよ」
「でもな、結構馴染んでるぜ」
「そう?だったら良かった」
「お互いしか見えてないって専らの噂だしな」
「そっか…(当然でしょ?他の誰かなんて見ないで…エルヴィンは私だけを見ててよ。だってエルヴィンは"私のエルヴィン"なんだから)
fin