第10章 近くて遠い、あと一歩
「今回のテーマは"夢の世界"なんですよ」
「へえ〜」
それで、キラキラ色鮮やかな眩しいくらいの絵もあれば、おどろおどろしい真っ暗闇にひとつ白い点が描かれただけの絵もあって、確かに夢の世界っぽい(小並感)展示物ばかりだ。
俺は正直なところ、こういう芸術作品には詳しくないし、彼女の存在が無ければ微塵も興味を持たなかったとすら思うから、よくわからないけど凄いなー綺麗だなーぐらいの感想しか出て来ない。それでも絵描きの彼女が言うに「凄いとか綺麗とか何でも構わないから何か感じてもらえたなら嬉しい」そうだ。
二階は小さめの作品展示とグッズ販売のスペースを兼ねていたようで、三階へ上がると、俺が横に寝転がっても足りないぐらい大きな絵画や、床一面に敷かれている青空を思わせるような絵もあったりして、ますます驚いた。うっわー、すげえー。そういや、何年か前こういう芸術作品に溢れた世界の──あれは美術館が舞台だったけど──ホラーゲームやったわあ。アレめっちゃ面白かったな、思い出すとちょっとテンション上がる。
青空の絵を通り過ぎた先に、俺はふと、ある絵画に目を奪われた。月明かりしかない暗闇を背景に、幼児の好む菓子や風船やお花などがおもちゃ箱をひっくり返したように散らばって、その中を楽しそうに遊ぶ子供らしき白くぼやけたシルエットがふたつ。ひとつには小さく羽根が生えていて愛らしい。
「あ、俺、この絵いちばん好きかも」
作者の名前とタイトルを探して、嗚呼、やっぱり、そう思った。
「やっぱり、菜花ちゃんの絵や」
「……名前、見なくてもわかるの?」
心の中で思うどころか、うっかり口に出ていたらしい。少し驚いてこちらを見上げる彼女の視線、俺は何だか恥ずかしい気持ちになって苦笑う。
「んー、なんとなくやけど、この絵あったかくてやさしい感じがして好きやなあ、って思うやつ、どれも菜花ちゃんの絵やから。この絵からも、そんな感じがして」
彼女は俺の言葉にはにかんで、ほんのり顔を赤らめた。可愛い。