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【実況者】蟹の好きな花【rtrt夢】

第9章 恋する風邪っぴき


 

 ふ、と目が覚めた。今度は横向きに寝ていたようで、淡い桜色のカーテンの隙間から、まだ明るい青空が見える。
 ここは故郷である京都の一軒家ではない、東京に移り住んだ私と父が暮らす花屋の二階のお家。自室のふかふかベッドの中だった。

 ──私はどうやら、懐かしい夢を見ていたらしい。
 幼い頃の、小学生の頃の夢。初恋の思い出。身体が弱ると心も一緒に弱ってしまうから、人恋しくなって寂しくて、こんな夢を見てしまったのかな。

 風邪薬を飲んでよく寝たおかげか、今朝よりは随分と身体が楽だ。夢の中で大好きな彼が看病してくれたおかげかも、なんて笑ってみる。とは言え、やはりまだ熱っぽい。ベッドの上で半身だけ起き上がるが、頭はくらくらして、相変わらず体も重い。
 それでもせめて、たくさん汗をかいたから着替えたいし、水分も補給したい。なんとか立ち上がろうと、ベッドに腰掛けて、床に足を付けた時だった。
 ガチャ、と自室の扉が開いた。

「あれっ、菜花ちゃん。もう起きて大丈夫なん?」

 いつも通りの眼鏡にマスク顔で心配そうな目を向けるその人の姿に、夢の中の、いや過去の私と同様、間抜けで変な声が出た。
 え。なんで。

「何で、春人くんが、家にいるの……?」

 彼は少し困ったように目を細め、うーんと言葉に詰まっている。片手にはコンビニのビニール袋をぶら下げていて、私の目の前まで歩み寄ると、袋の中からスポーツドリンクを出して手渡してくれた。

「はい、とりあえず水分補給して」
「あ、ありがとう……」

 状況に混乱しながらも彼の気遣いは有難くて、からからに乾いた喉をまずは潤す。ほっと気持ちが落ち着いた。
 彼は心配そうな眼差しで私を見下ろし、汗でぺったり張り付いた私の前髪を避けるように撫でた。そのまま額や頬、首にも触れてきて、擽ったい。でも彼の男性らしい骨張った手は冷たくて、心地良かった。

「まだ随分熱いなあ、薬は飲んだ? 腹は減ってる?」
「大丈夫だよ、ちゃんと病院で貰ったお薬飲んで寝たから、今朝よりだいぶ良くなりました。食欲は、あんまり、ない」
「そっか。昨日の夜さ、電話した時にめっちゃ具合悪そうやったから、心配で……」
 
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