第9章 恋する風邪っぴき
私は彼の言動にびっくりして、風邪のせいではない熱を頬に感じていた。
「じ、じぶんで、食べられるよ?」
「ええから、ほら! ……おれが、菜花ちゃんにあーんって、したいの。看病、してあげたいんや」
どきんとした。
心臓が大きく跳ね上がって、熱くなって、甘く締め付けられるような感覚を、その時はっきりと味わった。
「あ……あーん」
どきどきしながら、彼の差し出す粥を食べた。ひとくちめは味なんてわからなかった。心臓が、痛いくらいにどきどきして、苦しい。でも、ちっとも嫌な感覚じゃない。
これまでも彼と一緒にいて、似たような感覚に襲われたことがある。だけど、その日初めて、私は完全に原因を自覚した。
ああ、そっか、わたし──
「うまい?」
「……ぅ、うんっ、美味しい」
「へへっ、よかったー!」
彼のことが、好きだ。
思いっきり笑うと線になっちゃう可愛い目が、聞くと安心できる鼻にかかった声が、誰より私を大切にしてくれる優しさが、好き。大好き。
「ルトくん、ありがとう」
「ええよええよ、お礼ならお粥作ってくれたオカンに言ったげて。めっちゃ喜ぶから。ほらほら、もっと食べて! あーんっ」
「あーん。うんっ、やっぱりおいしい。……だいすき」
「ぅえッ!? あ、おかゆ、お粥のことか、おれも卵粥好きやなー! たまに食うとうまいよな!!」
風邪引きの私より赤いのではないかと思うくらい真っ赤な顔をする彼に、私は微笑むだけで、何とも言わなかった。だって、気付いちゃった。
ずっと、ずっと前から、私は彼に恋をしていたのだと、その日、気が付いてしまったから。
春人くん、ルトくん──
──会いたい、なあ。