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【実況者】蟹の好きな花【rtrt夢】

第8章 嫉妬も愛情表現です


 彼女は足を止めて、ようやく俺の顔を見上げた。その目は薄っすら涙で潤み、赤い顔は唇を尖らせて不機嫌そうにムッとしている。

「……私、春人くんのお母さんじゃ、ないもん」

 これでも、恋人、なんだから。

 耳を澄ませていなければ、聞こえないような声。彼女に意識を集中させていたから、辛うじてそのか細い声が聞けた。
 んぎゅッ、と自分の胸元で可愛らしい悲鳴が上がる。俺は気が付けば、彼女を目一杯抱き締めていた。広い道のど真ん中で、人目も憚らず、持っていたビニール袋も落っことして、我ながら珍しいことをしている。しかし今はそんなことどうでも良かった、この愛おしいあまりに破裂しそうな想いが伝われば良いと思った。
 何や、アホは俺の方やったんか。俺ばっかり嫉妬している、俺だけが今も彼女に恋をしているのかと、思っていた。そんなこと、なかった。彼女も同じだったのか。何にも変わってなんていなかった。

「る"ッ、るとくんっ、くるし……」
「へへへっ、そっかそっか、ヤキモチ妬いてくれてたんやなあ、可愛いなあ、ほんまに可愛い、菜花ちゃん大好き」
「煩わしいとか、思わない、の?」
「思わへんよ。こんなにも愛されててうれしいなあ、って思う」
「……心臓の音、速くなってる」
「うん。どきどきするよ、大好きなひと抱き締めてんのやから、当たり前やん」
「私、だけ?」
「もおー、愚問や、愚問! 菜花ちゃんは俺が人見知りなんよう知ってるでしょ。女でも男でも性別関係なく、知らん人にあんな至近距離で顔近付けられたら怖がってしまう、重度のビビリなんです。それでも、もっと近付きたい、触れたいって思うのは、菜花ちゃんだけやで。小さい頃から大好きな幼馴染みで、恋人やもん」

 俺は彼女を包み込むような弱さまで両腕の力を緩めて、彼女の頭にすりすりと頬を寄せる。彼女は安心したように俺の背中へ両腕を回して、抱き着き返してくれた。
 ──が、お互いに全然慣れない(公衆の面前でイチャつくなんて)ことをしているので、だんだんとめっちゃ恥ずかしくなり、ふたりとも顔を真っ赤にしながらそっと身体を離した。
 
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