第8章 嫉妬も愛情表現です
彼女は何故かやたらと、俺に引っ付いて歩くのだ。片手で俺の手に熱く指を絡めて、もう片手は俺の腕を掴んでいる。もはや少し歩き辛いほどに、ぴったりと、その身は俺の腕に寄り添っていた。珍しい。いつもは外で手を繋いで歩くことすら照れ臭そうにする彼女が、こんなにもべったりくっ付いてくるなんて。
や、嬉しいんですよ、可愛いんですけど、えっと、その、おっ、おおおおっぱいがめっちゃ当たってるんですよねえ、うん。いや、まあ、彼女の身体の全部隅々を見て触れたこともあるのに、今更何を恥じることがあるんだ、って話かもしんないけど。
「あ……ごめんね、嫌、だった?」
「いやじゃないです」
即答でした。
不安そうな顔をして少し離れようとした彼女を、俺は繋いだ手を強く握り締めて引き止める。
「菜花ちゃんにしては珍しいなあ、って。ちょっとびっくりしただけ。どうしたの?」
彼女はますます俺の腕に抱き付いて、しかしこちらは見ずに俯きながら、小声でぼそぼそと答えた。
「た、たまには、……恋人らしいこと、したくて」
心臓がドスンと貫かれた感覚がした。余計驚いてしまって、咄嗟に言葉が出ない。何その答え、可愛いが過ぎる。
ああ、なるほど、もしかして。こういう場面で無駄に察しの良い俺は、今朝の他愛ない会話を思い出した。
「もしやキヨくんたちに、俺のお母さんみたい〜、なんて言われたこと……気にしてる?」
返事はない。だが、無言は肯定と受け取って良いだろう。
彼女は俯いたままでその表情を見る事が出来ないけど、長い黒髪の隙間から覗く耳は赤い。自分でも慣れていない行動をとってしまい、めちゃくちゃに照れていると見た。ああ、もう、可愛くて可愛くて仕方がない。
「もお〜、変なこと気にし過ぎやで、菜花ちゃんは。確かにキヨくんたちにとっては、お姉さんどころかお母さんに近い存在なんやろうけど、俺にとっては当然、」
「っ、でも、でも、ルトくん、店員のお嬢さんにすっごい照れてた、し」
──え?
「あんな初々しい反応、私には全然、してくれないのに」
さっきは全然そんな素振り見せへんかったのに、まさか。
「そりゃあ、何年もいっしょに居るから、慣れてしまっても仕方ないんやろうけど、でも、何て言えば良いのかな、悔しくて……ちょっとだけ、嫌、だったの。だって、」