第8章 嫉妬も愛情表現です
敏腕カメラマンと愉快な悪ガキたちのおかげで撮影は楽しく進み、そろそろ一般客も増え始めたから、と言うことで午前中に終了した。
実況スイッチもOFF、はしゃぎ過ぎて息苦しくなったマスクも外して、その後は普通に皆で近所の有名ファミリーレストランへ食事に行った。キヨくんは「焼肉屋もしくはハナさんの手料理が良い」と喧しかったけど、ファミレスの入り口にあったガチャガチャをひとつ買い与えたら、意外に気に入ったようで大人しくなった。子供かよ。
まあ、何はともあれ、これでかなり動画の撮り溜めが出来たし、久しぶりにハナちゃんとゲーセンデート気分を味わえたし、レトルトさんは満足です。ミラノ風ドリア美味しい。
キヨくんとフジくんは彼らの属するグループ四人で借りているお家──通称・最俺ハウスにてまた別の動画撮影をするらしいので、食事後、そのままファミレス前で解散となった。
今日はありがとうございました、とサングラスもマスクもしてない素顔で微笑むフジくん。いえいえこちらこそ、と俺も軽く頭を下げてお礼した。動画内では下ネタ好きの中学生みたいなノリで俺らと絡んでるけど、普段は礼儀正しくて丁寧な良い子なんだよね。
「ハナさんもっ、今日はありがとうございましたー! また美味しいご飯食べに行きますからねぇー!!」
キヨくんはまだテンションが上がっているのか元気いっぱいで、こちらに大きな声を張り上げてブンブン両手を振って、フジくんに引き摺られるようにして去って行った。
彼らの姿が見えなくなった後、俺は隣の彼女に目を向ける。彼女も丁度俺の顔を見上げたタイミングで、目線が重なり、ふっと笑い合った。
「じゃ、俺らも帰りますか」
「はい。お疲れ様でした」
片手にはち切れんばかりの景品が詰まったゲーセンのビニール袋を持って、もう片手で愛しい彼女と手を繋いだ。
昼過ぎであまり人通りも少ない公園の中を歩き、最寄りの駅へと向かう穏やかな帰り道。しかし、俺の心はちっとも穏やかではなかった。
「……あのお、菜花、さん?」
「はい」
「なんと言うか、その……」
ち、近過ぎやしませんかね。