第8章 嫉妬も愛情表現です
ハナちゃんのおかげで撮影は順調に進み、事前に両替しておいた百円玉がいつの間にか殆ど消えた頃、キヨくんたちと合流。三人でひとつの景品を狙い、誰がそれをゲット出来るか勝負しよう! という話になった。
狙う景品は、名前も聞いたことすらない地味な、赤いお花を模したにっこり笑顔が可愛い謎のキャラクターぬいぐるみ。それでも、勝負となったら自然にやる気が上がる。その中でも俺の気合の入り方は他の二人と違っていた。必ずこのぬいぐるみを勝ち取りたい、強い想いがあった。
だってコレ、俺が描いたハナちゃんのイメージキャラクターにめっちゃ似てんねん。可愛い。欲しい、絶対欲しい。
そんな俺の邪な想いが通じたのか、三週目のチャレンジにして、奇跡が起こる。俺の操る三本のアームは、がっしりとぬいぐるみを掴んだ。そして、そのまま順調に落とし口へ進む!
「おおッ、来た来た来、た……?
あっ、あぁ〜!? ひ、引っかかった〜!?」
信じられない。運ぶまでは良かった。けれどまさか、落とし口の縁に、ぬいぐるみの片足が引っかかって落ちない、なんて。これは間違いなく勝ったと思ったのに……嘘やろ……。
「ぶっは! レトさんほんと運がねえというか何というか、」
あーあ、と呆れながらもゲラゲラ笑い出すキヨくん。
「これは引っかかったからやり直しだよね? ノーカン、ノーカン!」
サングラスにマスクのせいで表情は見えないけど、これフジくんも絶対笑っとるやろ、この野郎。
「いやいやいや、コレは取れてる判定でしょ!! ちょ、ちょっと待って、店員さん呼ぼうよ、ね、ねっ」
俺は慌てて、すぐ近くに居た女性の店員さんに声を掛ける。怠そうな雰囲気のその人は、こちらがおろおろ事情を説明すると、営業スマイルでゲームの機体に向かい合った。ガラスに口付けそうなほど顔を寄せて中の状況を確認している。その際、店員さんの顔が俺の至近距離に近付き、
「ひぇッ」
反射的に飛び退いてしまった。
びッ、びっくりした! 店員さんは仕事に集中してて、全く何も思ってへんのやろうけど、ち、近いなァッ!?
そんな俺の過剰反応を見ていた背後の悪ガキたちが、今度は大きな声を上げて笑い出した。