第8章 嫉妬も愛情表現です
「……って、あれ? レトさん、何その変なマスク」
「ふっふっふ、ようやく気付い、って変とは何やねん! めっちゃお洒落やろ、レトルトくんのお口マスクやぞ!!」
そう、今日の俺はいつもと違う。
俺はシルクハットにピエロみたいな仮面を付けた"レトルトくん"という二頭身のイメージキャラクターを持っていて、そんなレトルトくんの仮面のギザギザお口を模した白黒のマスクを付けているのである。
しかも、なんとこれは。
「菜花ちゃんの手作りでーす!」
「「な、ナンダッテェ!?」」
声を揃えて驚くキヨくんとフジくんに、菜花ちゃんは「そ、そんなに驚くことですか……!?」なんてオロオロしている。可愛い。
実は俺の去年の誕生日に、彼女が時間をかけて拵えてプレゼントしてくれたもので、ずっと使う機会を伺っていたのだ。これはもう彼女がカメラマンを引き受けてくれた今日、初お披露目するしかない! と思って付けてきました。
ふふん、どや。
「見て見て。鼻に当たるとこな、ちゃんとワイヤー入ってて曲がるの。眼鏡曇らないの。凄くない? 俺への愛とやさしさをいっぱい感じる」
「わあぁ、やっぱすげえな、ハナさんは……。世話好きで料理上手で裁縫も出来て、もう恋人どころか、レトさんのお母さんだよ」
キヨくんは褒めたつもりの言葉に、フジくんもうんうん頷いて「ほんとお母さんみたい」と同意する。凄い凄い、俺たちにもかわいいマスク作ってよー! ママー! なんてはしゃぐ成人男性たち。
彼女もマスクの出来栄えを褒められて相当嬉しかったのだろう。「じゃあ今度何かの記念に作ってあげるね」なんて安請け合いまでしてしまって、まさしく母のように優しい笑顔で彼らをにこにこ見つめていた。だけど──
「……お母さん、……か」
彼女が一瞬、寂しそうな遠い目で呟いた言葉を、俺は聞き逃さなかった。