第8章 嫉妬も愛情表現です
友人との電話は数分で終わり、ピッとすぐさま通話をオフにして、俺は深い深い溜息をついた。
ごろり、再び彼女の膝を枕に床へ寝転がる。「あんまり良くない電話だったの?」と、彼女はまた俺の頭をよしよし撫でてくれながら不安げに聞いた。
「うん……。明日な、カメラマンやってくれる予定の友達が、仕事の都合で来られへんようなったらしい」
「あら、まあ、」
「急やったから、代わりの誰かに頼むっちゅうのも難しいやろし、うーん、キヨくんに俺のカメラも頼もうかな」
「明日はキヨくんと撮るんだ?」
「うん、後フジくんも来るよー。カメラマン含めて四人でゲーセン行く予定やったんけど、はー、どうしよー」
とりあえずこの件をキヨくんたちにも伝えておかなければ、と俺は仰向けに体勢を変えて、携帯電話でメッセージアプリを起動する。携帯越しに彼女が俺を見下ろして、遠慮がちに口を開いた。
「……あの、ルトさん」
「はあい」
「私、カメラマンさんの代わり、してもいいかな?」
「えっ!?」
俺は驚いてすぐさま起き上がった。
「あっ、だ、だいじょうぶだよ! あんまり喋ったり笑ったりしないように気を付けるし、カメラの扱いなら時々お手伝いさせてもらってるからわかるし、明日は何の予定もなくて退屈だったから」
「そりゃ有難いけど、キヨくんたちもカメラ持って来るから、菜花ちゃんも少しは映っちゃうよ? ええの?」
配信者としては有難い申し出だが、恋人としては複雑である。正直、こんな可愛い彼女の姿を世に晒したくはない、今後も俺だけのものに留めておきたい、という気持ちはあったが──
「うん、少しだけならええよ。顔は当然隠すから。ルトさんが困ってるなら、ファンとしても彼女としても、力になりたいな。迷惑じゃなければ、です、けど……」
やっぱり出しゃ張りだったかな、ごめんね変なこと言って、なんて申し訳なさそうに悲しい笑顔を向けられたら。嗚呼。
「菜花ちゃんってほんまずるいわあ」
「え、えっ?」
「明日もよろしくお願いします……」
「あ……うんっ、頑張ります!」
断れるはずがなかった。可愛くて。