第8章 嫉妬も愛情表現です
嫉妬深い恋人はめんどくさい、なんて話もよく耳に入るし、こんなことをめそめそ考えてしまう俺の方が鬱陶しいんやろなあ。
なんだかゲームをやる気もなくしてしまって、テレビを消して、コタツの中にもぞもぞと首まで潜り込んで丸くなった。中で飼い猫と足がぶつかってしまい、ミャーッと怒られる。あぁ、ごめん。
「……春人くん、どうしたの? 今日は変に元気ないねえ」
クッションを枕にしていた俺の頭を、よいしょ、と自分の膝の上に抱えて、良い子良い子と頭を撫でてくれる彼女。まるで泣く幼子を慰める母親のようだ。
嗚呼、なんて優しい恋人なのだろう。大好き。こういうところに彼女の無償の愛情を感じるから、嫉妬してほしいなんて我儘、考えても仕方ない。
これが彼女らしい愛情表現の形、そう、決して倦怠期でも恋心が冷えたわけでもない、嫉妬しない=愛されている自信の表れなのだ。これが正妻の余裕というものか。はやく本当の妻になってほしいものである。そうと決まれば結婚指輪を選びに行こう。決めた。いま決めた。
「はあ……菜花ちゃんすき」
「ひぇッ、び、びっくりした。ほんま、今日は変なルトくんやねえ。ふふ、私もだーいすきですよー?」
「へへ、良かった。ちょっとね、甘えたい気分やっただけ、心配せんでええよ」
「そっか。最近忙しかったから、疲れてもうたんやね。いっぱい甘えてくださいな」
そのお言葉に遠慮なく、コタツから両腕を伸ばして彼女の腰に抱き着いた。スリスリとお腹に頬擦りをすれば、くすぐったいよーと彼女の照れた声が降って来る。仕返しのように俺の首元を擽る小さな手が、とても愛おしい。
このまま朝まで彼女に甘やかしてもらう(意味深)ルートを進みたいところだが、あ〜、そうだ、明日は予定あって早起きせなあかんから、夜更かし出来ません……うう……。
そこへ彼女との幸せな時間を、俺の携帯電話がけたたましい音を鳴らして邪魔をした。
「わ、ルトくん、電話だよ。ほら、コタツから出なきゃ」
「うぅ〜」
俺は渋々彼女から離れてコタツから這い出て、机の真ん中でガタガタ震えて喧しい携帯電話を手に取る。こんな時間に何やねん、もう! と一瞬怒鳴りたくなる気持ちを押さえて、けれど声はワントーン低く、電話に出た。
「はい、香坂です……」
電話の相手は、明日一緒に実写動画を取る予定の友人からだった。