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【実況者】蟹の好きな花【rtrt夢】

第7章 やきもちの本音


「……キヨくんの話ばっかり、」
「え、──ひゃッ!?」

 彼が急に起き上がったかと思えば、背中に叩き付けられた痛みが走り、視界に白い天井が広がった。その白を遮るように、赤い顔の彼がじっとり私を見下ろしている。どうやら押し倒されたらしい。

「あんたは俺の恋人やろ」

 さっきの甘い声は何処へ消えたのか、地の底を這うような低い声で、背筋がぞくりとした。
 何とかこの状況から抜け出すべく踠いてみるが、両腕を彼の手で床に押し付けられていて、逃れられない。「ルトくん離して」「いったんお水飲んで落ち着こう」「苦しいよ」と色々声を掛けてみたが、全く聞いている気配がない。目が据わっている。

「キヨくんだけやない、フジくんやヒラくんたちまで、自分より少し年下やからって、弟みたいで可愛い可愛い、って、俺がどんな気持ちで彼奴らの話を聞いてるかも知らずに、楽しそうに、ひどい、ひどいよ、昔は俺だけやったのに、俺のことだけ可愛がってくれてたのに、」

「はると、くん?」

「ずっと昔から、小さい頃から、菜花ちゃんは俺の友達で、お姉ちゃんで、恋人で、お嫁さんやのに、何で他のやつばっかり可愛がるの。
 俺だけでいいよ。俺だけを可愛がってよ。俺より彼奴らの方が可愛いの? 俺のこと大好きなんちゃうの? やだ、いやだ、こわい。いつか、俺のことなんて、要らんようなるんちゃうか、飽きられるんやないか、って、こわい。
 やだよ、俺以外の男なんか見んといてよ……俺には、菜花ちゃんしか、おらんのに……うっ、うぅッ、ぅ」

 彼の目から堪えきれず溢れ出した雫が、ぽたぽたと私の頬に落ちる。まさか彼は、酔っ払うと絡み酒するタイプで、オマケに泣き上戸だったのか。
 ぐすぐす泣き始めた彼の下で、私は驚いてしばらく声が出なかった。お酒を飲むと人は本音を言いやすくなる、その人の本性が出るものだ、なんて聞いたことはあるけれど。

 これが、彼の本音?

「ふ、ふふっ」
「ぐすっ、なんで、笑ってんの」
「ご、ごめんね、笑い事じゃないって、わかってるんだけど、ふふふ、ヤキモチ妬きの春人くん可愛いから」
「ひぇ」

 変な声。鳩が豆鉄砲食らったみたいな、ちょっと間抜けな顔をしている。でも、やっぱり可愛い。好き。嫉妬さえも愛らしい。赤い顔がもっと赤く染まったように見えた。
 
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