第7章 やきもちの本音
レトルトさん、いえ、春人くんはお酒に弱い。なんて言うより、もはや彼は神様に飲酒を許されていない、と言ってもいい。
元々本人もお酒の匂いやアルコール独特の苦味が嫌いらしいけど、やっぱりお友達がお酒片手に楽しくしていると、少し羨ましくなるんでしょう。
過去、試しに度数低めの甘いカクテルを半分ほど飲んだら、それだけで気を失って危うく生死の境を彷徨いかけたことさえある。その時はガッチマンさんのおかげで命を救われ、キヨくんが介抱してくれたそうです。翌朝、二日酔いに痛む頭を抱えて真っ青な顔で「もう二度とお酒なんか飲みません……」と私に宣言していました。
──にも関わらず、お酒を飲んでしまった、と。
キヨくんから緊急の電話を受けて、慌ててルトくんの住むマンションへ合鍵を使って入ったら、目の前に火照った顔の彼が居た。
「あ〜っ! 菜花ちゃんっ♡ 菜花ちゃんや〜、おかえりぃ♡♡」
聞き慣れない甘い声で出迎えられたかと思えば、いきなりむぎゅうっと抱き着かれた為に私は体勢を崩して座り込んでしまい、何故か玄関先で彼を膝枕する羽目になっております。
二度も彼を連れ帰ってくれた恩人のキヨくんは、そんな私を見て必死に笑いを堪えている。お口とお腹を押さえてぷるぷる震えている。電話ではあんなに切羽詰まった声を出していたのに、あれは私を呼び出すための演技だったんでしょうか。
キヨくん曰く彼は『他の人が注文したカクテルを、自分が頼んだジュースと間違えてひとくちだけ飲んでしまった』らしい。たったひとくちでも、彼はすぐにお酒だと気付いてお手洗いに駆け込んだそうだけど、まあ、御察しの通り、彼のアルコール耐性は異常に弱い。お手洗いから戻って来た彼は、自力で立てないくらいべろんべろんに酔っ払っていたそうです。
ああ、でも、彼の意識があるだけ、まだ良かった。