第6章 怖がりさえも愛おしい
もう一度、念を押して言うが、俺の彼女はホラーが大の苦手だ。
そして、悲鳴もプロ級である。
「ひいぃッ!!」
飼い猫が驚いてドタバタと部屋から逃げ去っていくほどの悲鳴を早速上げたが、このぐらいはまだ序の口で──
「ゃ、ぁっ、今なんか……うあっ、やだやだやだッ! やぁッ、こっち見てっ、ひゃああぁ!? やだぁっ、怖い怖いこわ、ひッ、やあああぁぁッ!!!!」
うちのマンション、ペット飼える(=防音設備しっかりしてる)ところで良かったな、と改めて思う。俺は怯えて絶叫する彼女に抱き着かれながら、必死に笑いを堪えていた。
俺はもうどのタイミングで何が起こるか体験済みなので、特に改めて驚く場面はないけれど、彼女は編集中にも気付かなかったほんの少しの変化や何の変哲も無い普通の影にもいちいちビビるので、彼女の反応につられてびっくりすることはある。
自分で自分の動画を見る、というのは何度味わっても小恥ずかしい変な気分になるけれど、視聴者さんたちのコメントや彼女の可愛らしい反応が見られるのは面白い。それに、ちょっとこういう悲鳴ってえろくない? そそられない?? なんか喘ぎ声っぽ、げふんげふん、いえ何でも無いです。本人に言ったらめちゃくちゃ怒られると思うから絶対言われへんわ、こんな話。
今度、試しに《怖がりの幼馴染みにホラーゲーム実況させてみた》なんて動画でも撮ったら、なかなか伸びるかも。……いや、俺以外にこんな悲鳴のえろくて怯える姿も可愛い彼女を晒すとか、ありえへんわ、無い無い、とすぐに脳内会議は終了した。
そんなアホなことを考えていたら、いつの間にか動画は終わっていた。ま、第一話は短い話やったからなー。
「うっ、ゔうぅ……こわかった……」
「でもめっちゃ面白かったでしょ、この独特の感じ」
「うん……第二話、楽しみ……ぐすっ」
少し泣いてしまうほど怖かったのに、絶対続編も見るんやな。その時はまたこうして俺も付き合わされるのだろう。近い未来の自分を思うとまた笑いが込み上げてきて、にやけたままによしよしと彼女の頭を撫でて慰めた。
せっかくお菓子も飲み物も用意したのに彼女は怖くて全く手を付けられてなかったので、まだ寝るには怖いと言うので、もう少し他の動画を見て夜更かしすることにした。