第6章 怖がりさえも愛おしい
俺の彼女にはひとつだけ、小さな頃から克服出来ない苦手なものがある。
「……よし、投稿完了、っと」
「おつかれさまー。後でゆっくり見させてもらうね、今日は何の動画を上げたんです?」
「んー、今日はなあ、ふっふっふ」
「えっ、そ、その嫌な笑いは……」
「新しいホラーゲーム実況、始めました」
にんまりと笑って告げた俺の一言に、彼女の表情が一瞬で怯えたものに変わり、みるみる青ざめていった。
そう、俺の彼女はホラーと名のつくものなら、ゲームも小説も映画も、人伝に聞く怖い話だって大の苦手なのだ。その癖、ホラーゲームの実況動画は見たがるのだから、変わった子である。ゲーム実況なら自分でプレイするより幾分怖さが和らぐから、だとは思う。
「け、結構、怖い……?」
「めっちゃ怖かった」
「ひぇ……」
「日常侵食リアルホラーってタイトルについてるだけあって、日常に起こりそうなリアルな怖さがじわじわ来て、演出すごかったわー。あ、あと別の意味で怖い展開も……いや、これはネタバレなるからやめとこ。怖いけど、そのぶん面白かったよ」
「うっ、そ、そうなんだ」
だけどやっぱり、ひとりで見るのは何歳になっても怖いらしい。
見たいけど怖い、と小さく呟いて早くも涙目になっている彼女。うちの飼い猫を抱き締めてぷるぷる震える姿はあんまりにも可愛くて、にやけてしまう。
「んふふ、呪いのゲエムもクリアしたことあるホラーゲームの達人レトルトさんが、いっしょに見てやったろか〜?」
「お、お願いいたしますっ」
「わあ素直」
いや結構死にまくってたじゃないですか、てツッコミ入れて欲しかった気持ちもあるけど。
必死で即答してしまうぐらい、ほんまにホラー苦手やもんなあ、でも俺の動画はどうしても見たいねんなあ、可愛いなあ。
今夜は早めに夕飯を済ませて、後で怖くて入れなくならないようにきっちりお風呂も済ませた後、彼女は愛らしい桜柄のパジャマに身を包む。パソコンの前にコンビニで買い込んで来たお菓子と飲み物を置き、そして隣に俺を座らせて彼女もピシリと姿勢良く正座した。部屋の電気は雰囲気作りの為に消してある。
「準備万端っ、です! い、いっ、いいいいつでも再生しちゃってください!!」
そう言って、隣に座る俺の腕にぎゅっと抱き着いた彼女。ああ、もう、なんやろ、この可愛い生き物。好き。