第5章 幸せなおふたりさん
「ふーん」
言葉どおり、大した理由なんてないのかもしれない。だけど不思議だった。
どうもこの人は独占欲が強いのか何なのか、彼女の惚気話はデレデレとする癖に、俺だけでなく他の実況仲間にも彼女を会わせることは頑なに嫌がっていた。あれだけの美女だからこそ、他の男に惚れられたり、いやらしい目で見られたくないのだろうか。でも、俺にもしあんな可愛くて献身的な恋人がいたら、たぶんもっと自慢したくなる。それこそレトさんに紹介して、思いっきりドヤ顔かましてやりたい。
レトさんはしばらく無言で作業に集中していたが、不意に「あ」と声をあげた。何か機材にトラブルでもあったかと、一瞬寒気を感じたが──
「……彼女なんて紹介したの、キヨくんが初めてやなあ」
独り言のように、やはり俺の方は全く見ないでそう呟いた。いや、寧ろ見られなくて良かった。俺ちょっとにやけてるから。
「えっ、まじんこ?」
「うーん、大学の友達にも会わせたことない。幼馴染みの彼女おることは言ってるけど」
俺はまた「ふーん」なんて興味無さそうに返答したが、顔はやっぱりニヤニヤしてしまっている。そういえば、彼女本人も「ルトさんからお友達紹介されるなんて初めて」と言っていたか。
へえ、ふーん、そう。俺は大事な大事な彼女を紹介してもらえるくらい、この人にとって近しい存在──親しい友であることを、認められている気がして。それだけ信頼されているように思えて。なんか、うん、ちょっとだけ、まあ、ほんとにちょっとだけ、……嬉しかった。
「ま、キヨくんって恋にはヘタレのヤンキーやし、あんな美人さんに手ぇ出せるような度胸ないやろしな〜?」
「はあ??? ヘタレでもヤンキーでもねえわ。例え俺からアプローチしなくても、春野さんの方が俺に惚れちゃうかもよ、さっきの紳士的な対応に『やだキヨさんって動画の印象と全然違って真面目でカッコ良くて素敵♡』ってギャップでときめいたでしょ、絶対」
「さっきまでのキヨくんのどこに紳士要素があったの?」
「けど万が一にも彼女が俺に心変わりしちゃったら、どうすんの〜、レトさん」
「おまえをころす」
「ヒェッ顔怖ッ」