第3章 まるで恋愛ゲームのような、
とりあえず私たちは、彼がこれから住むマンションへ向かった。昨日運び込まれたばかりの段ボールの山に囲まれながら、まだ殺風景なベランダの近くに適当にふたり並んで座り込む。陽当たりはなかなか良い部屋である。
そこで、幼馴染みの彼でありレトルトさんから、これまでの話を聞いた。
「──と、言うわけで、実況始めて4年目になりました、レトルトと申します」
「あ、えっと、初実況の頃から見てました、ファンです。握手してください」
わー、いつも見て下さって嬉しいです、ありがとうございます。──なんて、幼馴染みとしてはありえない会話。本当に握手させてもらった彼の手は、小さい頃に比べたら随分大きくなっていたけど、昔から何ら変わりない優しい男の子の手である。
私はだんだん面白くなって笑ってしまった。彼も、堪えるように小さくクスクスと笑い出した。
「ぷ、あははっ、びっくりしたー。そっかあ、似てるなあとは思ってたけど、似てるも何も本人だったんだ。私、知らず知らずの内にルトくんのファンになってたんだね」
「ふ、ふふっ、ほんまにびっくりやね。ていうか、菜花ちゃんはとっくの昔に気付いてはるんやと思ってた。
ほら、高2の時に『ゲーム実況知ってる?』なんてメールで聞いてきたやろ、俺あん時"ウワー! 幼馴染みにバレた!!"思うて、実況始めたばっかりやから友達に知られるの恥ずかしかってん、1日返事に悩んだ後、知らん振りしてもうたんやー。てっきり俺のこと気付いてるけど、菜花ちゃん優しいから気付いてない振りしてくれてんのか思ってた」
「ううん、全然ほんまに気付いてなかった……私って意外と鈍感なんでしょうか、あはは……」
「まあ、普段の声と実況の時の声は、ちょっと感じ違うんかな? 使ってるマイクとかの問題もあるかも。でも、そんなことはええんよ、菜花ちゃんが俺の実況見続けてくれてたのが嬉しいから、まあ、ちょっと照れ臭いけど」
「これからも応援してます"レトルトさん"」
「わ、わわっ、実況外でその呼び方はやめてよお、応援は嬉しいけどさあっ」
へへへ、とマスクを取った素顔で照れ笑う彼にきゅんと胸が高鳴る。
彼本人だとわかっていなくても、その声や喋り方、楽しそうにゲームをしている姿が可愛くて、自然と好んで見ていたらしい。やっぱり私は、彼のことが大好きなんだなあ。