第3章 まるで恋愛ゲームのような、
「あっ」
その時、唐突に彼が声をあげた。たぶん、私は携帯の画面を彼の方へ向けていて、彼は特に見る気がなくても画面を見てしまったのだ。
「ニコ動や、何の動画見てたん?」
普段のメールでするような何気無い会話の滑り出しだった。特に深い意味もなくちょっとした興味本位で聞いたのだろう、彼から同じサイトでよく面白いネタ動画を紹介してもらっていたし、先程見終わった動画をまた再生しながら話した。
「あ、前にもちょっと話したことあるけど、ゲームのプレイ実況動画を見るのにハマってて。さっきもこれを見てたの。ルトくんは確か、知らんのやったっけ? 面白いんだよー、私、このレトルトさんって実況者さんが大好きで、」
「ひょェッ」
「何その声」
幼馴染みの彼の口から今まで十数年聞いたこともない高い声を聞いてビックリする。マスクに殆ど隠されていても、首や耳の色で、彼の顔がみるみる赤色に染まっていくのがわかった。
「え、れ、レトルトさんって、言うた?」
「うん、レトルトさん。知ってるの? 鼻声で関西弁の、」
「鼻声ちゃうわ。あッ……いや、知ってるも何も、えーっと、菜花ちゃん、もしや俺のことからかってる?」
「んん、何のこと……? でも、知ってたなら嬉しいな。このひとね、下手でも負けても関係なく、とっても楽しそうにゲームをするところが好きなの。それにルトくんに色々似てると思わへん? 声とか喋り方とか、好きなゲームも……」
そこまで話して、私の中で数年眠っていた名探偵が突然ムクリと起き上がった。
レトルトさんを褒めたのに、まるで自分のことのようにもじもじと照れて嬉しそうな目をしている、幼馴染みの彼。携帯の画面と、彼の顔を、3度ほど交互に見比べた。イヤホンを付け直して、もう一度"レトルトさん"の声を聞き直す。元気いっぱいな挨拶をする声は"幼馴染みの彼"と似ているどころか、寧ろ──
「……こ、こんちゃー、っす」
「ふェッ」
今度は私が、高い変な声を出してしまった。