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【実況者】蟹の好きな花【rtrt夢】

第3章 まるで恋愛ゲームのような、


 そこまで話を理解して、ふと、前日の夜に彼が電話越しで告げた言葉を思い出した。

「もしかして、ルトくんが伝えたかった事って、ゲーム実況のお話?」
「え? あッ、いや、違っ……違わなくもないけど、それも勿論改めて伝えるつもりだったけど、違くて、えっと……」

 彼は一生懸命何かを言い出そうとしながら、でもやっぱり恥ずかしくて言えないのか、暫く口をぱくぱくさせて「あー」とか「うー」とか言葉にならず唸っていた。そんな自分に嫌悪感が湧いたのか、今度はがっくり項垂れて深い溜息を吐き出す。そのころころと変わる表情は昔からちっとも見ていて飽きない。
 彼の百面相をほのぼの眺めていたら、突然。彼が急にバッと勢いよく顔を上げて、まっすぐ真剣な表情で私を見つめた。どきんとする。

「……菜花、ちゃん」

 少し泣きそうに震えた声。恐る恐ると言った様子で、彼の両手がギュッと私の右手を包み込むように握り締めた。さっきの戯れの握手とは、手の熱が違う。溶けそうなくらい、熱い。彼の唇がゆっくりと窄まる。

「す、好きです。ぼ、ぼくのッ、か、きゃ、彼女に! なって、くれませんかっ!!」

 せっかく言い切ったのに、本人としてはもっと格好良く決めたかったのだろう、涙目に真っ赤な顔で「噛み噛みやし声裏返ったし、もうやだ……」と酷く凹んでしまう彼。
 ルトくん、恋愛ゲームの主人公には向いてないみたい。でも、その台詞は私がずっと聞きたかった、待っていた言葉だったから、ばっちり幼馴染みルートの攻略条件達成です。

「春斗くん」
「は、はひっ」
「私も、ルトくんのこと好き、大好きだから、嬉しいよ。ありがとう」
「ちゃんと、け、結婚を前提に、考えてくれる?」
「うん、勿論です」
「あ──よ、よかった! へへっ、まあ、正直断られる気ぃなんてこれっぽっちもしてへんかったけどね!! ふふんっ!」
「えぇ、あんなに緊張してたのに?」
「だって、菜花ちゃんとは、小さい頃から約束──してたでしょ。俺、忘れてへんからね?」
「ふふ、そうでした」

 やはり彼と婚約の言葉を交わした例の記憶は、幼い頃の私の確かな記憶だったんだ。嗚呼、まんまと完全攻略です。私はこの日、彼の幼馴染みから恋人になりました。
 例え何年先になっても構わないから、いつか必ず、私をあなたのお嫁さんにしてください──。





-了-
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