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【実況者】蟹の好きな花【rtrt夢】

第3章 まるで恋愛ゲームのような、


 
 彼が上京してくる日、私は駅まで彼を迎えに行った。約束の待ち合わせ時間より早く着いてしまったので、大好きなレトルトさんのゲーム実況を見ながら待っていた。
 でも、動画になんてちっとも集中出来ない。改札口が賑わう度に辺りをきょろきょろ見回して、反射的に彼の姿を探してしまう。予定の時間にはまだ早いのだから、彼を見つけられるはずもないのに。その日は朝から落ち着きがなくソワソワして、少しでも目でも手でも足でも何か身体を動かしてないと心臓を吐き出しそうだった。
 だけどそれも仕方がなかった。落ち着きなさい、という方が無理だった。何せ、前日の夜──

『明日、東京で会えたら……菜花ちゃんに、改めて伝えたいこと、あんねん』

 何処かふたりきりになれる場所で、俺の話を聞いてほしい。
 電話越しにそんなことを言われてしまったら、変に緊張してしまう。私だってもう大学生になる、何も知らない幼い女の子じゃない。中学生の終わりに彼が言ってくれた言葉だって、ちゃんと覚えてる。私は正直、色々と期待をしてしまっていた。それこそ、恋愛ゲームのような甘い告白を、彼の口から聞けるのではないか──と。
 結局、幼馴染みの彼とよく似た癒しの鼻声を音楽のように聞き流して、内容も殆ど頭に入ってこないまま、動画を見終わってしまう。
 はあ、こんな調子で彼と顔を合わせた時、いつも通りで居られるのかな……と不安になった所へ、私の携帯電話が軽快な音を鳴らしてメールを受信した。

『駅、着きました!』

 彼からの短い一言のメール。改札口がまたざわつき始めて、私は今度こそよおく目を凝らして、彼の姿を探す。
 写真を送って見せてくれた、高校卒業してすぐに染めた初々しい茶髪。マスクをしていたってわかる、年齢の割に幼くて笑うと線になっちゃう細くて可愛い目。ぶんぶんと嬉しそうにこちらへ手を振る彼の姿が、やっと見つかった。
 私も自分の携帯電話を握ったままに、大きく手を振り返す。重そうなキャリーバッグをがらがら引き摺って、物がパンパンに詰まったリュックサックを背負いながら、よろよろ私の元へ駆け寄って来た。

「菜花ちゃーんっ、ただいま!」
「ふふ、ただいま、なの?」
「うん、これからはこっちが俺の家がある街になるんやからね」
「そっか。じゃあ、おかえりなさい」
 
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