第3章 まるで恋愛ゲームのような、
卒業式を終えた数日後。十数年住み慣れた一軒家から引っ越す為の準備を終えて、朝早くから荷物の詰まった段ボールをトラックに積み込んでいた所へ、誰か走ってくる影が見えた。
「──菜花っ、ちゃん!!」
幼馴染みの彼だった。寝起きですぐここへ来てくれたらしい、小学生の頃からよく見慣れたパジャマ姿に、それだけで涙が出そうになった。
「春斗くん……?」
どうして、あなたには引越しのことを伝えてなかったのに。そう口を開こうとする余裕もなく、彼に強く両肩を掴まれた。彼は泣いていた。なんで、と吐き出された彼の声は掠れて震えている。この世の終わりでも知らされたかのように、大袈裟なほど絶望した顔だった。
「なんで、卒業したら引っ越すって、なんで俺に教えてくれへんかったん!? 俺っ、オカンから初めて今朝聞いて、なあ、なんで……」
「だっ、て……春斗くん、私のこと、嫌いになっちゃったんだと、思ってたから……私なんて、居なくなっても、別に……」
「ッ、んなわけないやんかぁ!!」
感情の昂った彼は大きな声をあげて泣いた。私も泣いてしまった。でも、悲しかったわけじゃない、嬉しかったのだ。彼が、私を嫌っていなかったと、ようやく知った。安心した。良かった。
「グスッ、ごめん、ごめんね、菜花ちゃん、俺、ちゃうねん……嫌いになったとか、そんなんちゃう……」
顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら謝る彼。私は父が差し出してくれたハンカチで、彼の顔をよしよし拭いてあげたことをよく覚えている。