第1章 毎日
「うっそ!メール送ったり電話しても出なかったから、新しい携帯に変えちゃったんだと思ってた」
「メールは見てたよ、留守電は帰りたくなっちゃうから聞かなかった…ホントにごめんなさい」
無事に対談の取材とそれに合わせた写真撮影が終わり、別にマリエのブランドのコーナーも少し設けてくれることになった。レイラもマリエのデザインした白くふわふわとボリュームのあるリボンが特徴のワンピースを着てモデルになってくれた。
この後2人とも予定はなかったため、アイとは別れ近くのカフェへと移動した。レイラのマネージャーは取材のあったビルまで送りはしたものの、デビューしたばかりだが仕事が立て込んでいるらしく別のメンバーの元へと向かってしまったらしい。レイラはマリエがいるからと突っぱねたことも原因の1つだった。
「謝らないで、その時のことなら私も原因だったんじゃないかって、思ってたから」
「…レイラ」
マリエが最後に会った時よりも、少しばかり大人になった顔つきのレイラ。大きくパッチリとした瞳は伏せられて、彼女の取り柄の明るさが感じられない。慌てるようにカップの隣にあったレイラの手をマリエはそっと握った。
あまり思い出したくなかった記憶。何度も蓋を閉じても、上京し一人で寂しかった夜や仕事関係で嫌な思いをした時に開いてしまう、幸せだけど辛い記憶。もうしまい込む必要はなくなるのだろうか、マリエは少しだけ蓋の中身を取り出す決意をした。
「そんなことないよって言いたいけど、やっぱり私はあの人が好きなんだって…レイラのおかげではっきりとわかったの。辛かったけど、自分で誤魔化していた気持ちが形になったんだ」
(ただ私にはレイラのように手を繋いでくれる人、優しく抱きしめてくれる人。
愛の告白をしてくれる人なんていなかった。)
きゅっと自身の手に触れられている手がわずかに強まったのをレイラは感じた。子供の頃に繋いでいたマリエの手よりもずっと大きくなっていた。女性らしく綺麗な手だが、彼女が女優として努力している強さを感じさせられた。
「私は避けていたけど、レイラのことを恨んだりしてないよ」
(…全て忘れようと頑張っていたけど)
再開した時とは違うマリエの赤く潤んだ瞳。